「オーウェンはミーハー兄ちゃんじゃない!」|『ライフ・アクアティック』に見るアンダーソンの思い
『マーリー』はオーウェンらしさが発揮されていない作品でしたから、今度は思いきりオーウェンの特色が全開する映画を。
『ライフ・アクアティック』。2004年公開の映画です。監督はオーウェンの大親友ウェス・アンダーソン。
私のブログでウェスの作品を取り上げるのは初めてですね。
オーウェンが出演したアンダーソン作品は何作品もあり、どれを最初に取り上げようか迷ったのですが、結果的にウェスのオーウェンへの思い入れが強く感じられる『ライフ・アクアティック』を選びました。
せっかくなので、第1回は
・オーウェン・ウィルソンとウェス・アンダーソンの友情
・ネッド役にオーウェンが選ばれた経緯
にフォーカスを当ててお話しましょう。
- 🌊オーウェン・ウィルソンとウェス・アンダーソンの関係🌊
- 🌊『ライフ・アクアティック』のネッドはオーウェン・ウィルソンのために書かれたキャラクター🌊
- 🌊映画『ライフ・アクアティック』あらすじ・予告編・キャスト🌊
- 🌊まとめ:『ライフ・アクアティック』はウェスとオーウェンの友情から生まれた映画🌊
🌊オーウェン・ウィルソンとウェス・アンダーソンの関係🌊
Photo by nydailynews
映画について話し出す前に、オーウェンとアンダーソンの関係について解説させてください。
以前の記事に書いたように、オーウェンが映画界に足を踏み入れるきっかけを作ったのが、ウェス・アンダーソン。オーウェンが作家を目指して大学で戯曲の勉強をしている時に知り合いました。
2人の最初の作品『アンソニーのハッピーモーテル』(原題︰Bottle Rocket)
アンダーソンは処女作『アンソニーのハッピーモーテル』(原題︰Bottle Rocket)を作るにあたってオーウェンの協力を求め、二人は脚本を一緒に書きました。
まだ名もない新人監督だったアンダーソンは映画を製作するにも財力があまりなく、経費削減のためにオーウェンに演技もしてくれるように頼みます。
これを受けて、オーウェンは弟のルークと兄のアンドリューも呼び、3人揃って映画デビューするも、『アンソニー』は興業的に大失敗。
Photo by Columbia Pictures
大泥棒ディグナンを演じるオーウェン
『アンソニーのハッピーモーテル』が冷たい反応を受けて気まずい思いをしたことを、オーウェンはずっと後になっても忘れられなかったようです。
オーウェン:あの時の観客の反応がトラウマになって、自分が出演した作品が公開される時は映画館で観ることができないんだ。
オーウェンはもともと繊細な性質なので、こうしたことを引きずりやすいようですね・・・。
何の前触れもなく、ハリウッドから招待の手紙が届く!
映画の失敗に気落ちしながらも、もともと俳優になりたいわけではなかったオーウェンは海軍に志願し、新しい道に進もうとしました。
ところが、そこにハリウッドの映画関係者から手紙が・・・。
内容の趣旨は、「ぜひ俳優として活躍してほしいから、戻ってきてくれ」というもので、何と、
ファーストクラスの航空券が添えられていました!!!
びっくりしたオーウェンは招待に応じることにしたものの、自分のためにファーストクラスの料金を払わせるのは申し訳ないと考え、空港でエコノミーに替えてもらおうとしました。
事務員から「この航空券はクレジットカードで支払われているから、本人でないと変更はできない」と言われ、結局そのまま乗ったのですが、いかにも細やかな気遣いのできるオーウェンらしいエピソードですね。
オーウェン:ファーストクラスに乗ったのは初めてだったよ。すごくぜいたくな気分だったけど、やっぱり申し訳なかったな。
こうして、オーウェンは華々しくハリウッドの重要人物になっていったのです。
🌊『ライフ・アクアティック』のネッドはオーウェン・ウィルソンのために書かれたキャラクター🌊
Photo by Touchstone Pictures, fanpop
『ライフ・アクアティック』は、ウェスがいかにオーウェンに温かい友情を持っているかを示す作品に仕上がっています。
オーウェンが演じたのは、海軍兵士の青年。「オーウェンといえばコメディ!」というイメージを持っている観客には、驚きをもたらすキャスティングでした。
しかし、実はネッドは「ウェス・アンダーソンの知るオーウェン・ウィルソン」のすべてが込められた役柄です。
オーウェンが初めて出演のみとなったアンダーソン映画
本格的に映画界に入ってからも、オーウェンはアンダーソンの映画『天才マックスの世界』と『ロイヤル・テネンバウムズ』の製作に関わっています。
前者では脚本と製作総指揮を、後者では脚本・出演・製作総指揮の3役をこなしました。
しかし、『テネンバウムズ』の頃からオーウェンは非常に多忙になり、以後は脚本に関わることは少なくなっていきました。
『ライフ・アクアティック』はアンダーソン監督4作目で、初めてオーウェンが出演者としてのみ登場した映画。
この作品の脚本はアンダーソンとノア・バームバックによって書かれています。
アンダーソン監督はオーウェンの戦争映画がお気に入り
アンダーソンは脚本を書くにあたって、最初からオーウェンに演じさせるつもりでネッドの人物像を作り上げました。
アンダーソン:オーウェンが演じるのは、いつも狡い軽薄な役ばかりだから、たまにはまったく違うタイプの役をしてもらいたかったんだ。
彼はオーウェンが自分にふさわしくない役ばかり演じることに苛立ちを感じていたのですね。
確かにアンダーソンの作品でも、オーウェンの役回りは決していいものとは言えません。『アンソニーのハッピーモーテル』では泥棒役、『ロイヤル・テネンバウムズ』では薬中毒の作家役で、主役級の「よい青年役」はいずれもルーク・ウィルソンになってしまっています。
Photo by WireImage
余談ながら、アンダーソンは「いつも主役をルークが持っていってしまうこと」に腹を立てていたよう。そのせいか『ロイヤル・テネンバウムズ』を最後にルークの起用をやめてしまっています。
話を戻して、ウェス・アンダーソンのコメントの続きを見てみましょう。
アンダーソン:オーウェンがコメディ俳優になるなんて、僕は予想もしなかった。シリアスな俳優だと思っていたから、軽いお兄ちゃんタイプのイメージで知られていることに驚くばかりだよ。僕が好きなのは『エネミー・ライン』での彼だよ。もっとああいう役を演じてくれればいいのに。
Photo by 20th Century Fox, fanpop
お察しのとおり、アンダーソンは親友のオーウェンのイメージがどんどん曲がって知られていくことに呆れ、心を込めてネッドというキャラクターを作り上げたのでした。
・関連記事
オーウェン・ウィルソン、自分にそっくりなネッドを「僕なんかが演じるには誠実すぎる!」
アンダーソンが最初に脚本を渡した時のオーウェンの反応は、何と「僕なんかにはとても演じられない!」。
オーウェンは、ネッドがあまりに純情で優しい性格であることに驚き、この役の素晴らしさを演じられるかどうか本気で心配したそうです。
とんだご謙遜ですね! 「ネッドの誠実さも優しさもオーウェンそのもの」と言っていいほどなのに。
アンダーソン:オーウェンはすっかり戸惑って、不安がるんだよ。でも僕は承知せず、彼をホテルに引っ張り込んで、脚本のセリフを読み上げさせた。そうするうちに、やっと彼も落ち着いてきて演じる決心がついたみたいだった。
こうしてオーウェンは、これまでになく自分らしい役柄を演じることになります。しかし、それにも関わらず、オーウェンはインタビューでも「謙遜しすぎなコメント」を述べていました。
オーウェン:ネッドはどこまでも純情で誠実だから、演じるのは難しかったよ。情緒不安定で感情的な役のほうが演じやすいんだ。
「自分によく似ているから演じやすい」と言ってもいいのに・・・。
→AmazonPrime
🌊映画『ライフ・アクアティック』あらすじ・予告編・キャスト🌊
ドキュメンタリー映画の製作者スティーブとその部下たち、スティーブの息子かどうか分からない海軍兵士のネッド(これをオーウェンが演じます)、不倫の子を身籠る若い新聞記者のジェーンらが織りなす人間ドラマ。
タイトルのアクアティックから連想できるように、常に海が背景に存在する作品で、様々な人間模様や感情が描かれる、かなり奥深いストーリーです。
あらすじ
予告編
登場人物・キャスト
ウェス・アンダーソンは、馴染みの俳優たちでいろいろな映画を撮っていくタイプの監督。本作でもビル・マーレイとオーウェンはアンダーソンの常連、ウィレム・デフォーはこの時が新登場ですが、以後アンダーソン作品の敵役・悪役として、しばしば出演するようになります。
スティーブ・ズィスー(ビル・マーレイ)
Photo by Touchstone Pictures, babajoniie
映画の主人公。ドキュメンタリー映画の製作者であり、探検船の船長。10年間、映画が失敗続きでスランプ状態。
ネッド・プリンプトン(オーウェン・ウィルソン)
Photo by Touchstone Pictures, famousfix
海軍の副操縦士。スティーブの息子の可能性もあるが、真実は分からない。
クラウス・ダイムラー(ウィレム・デフォー)
Photo by Touchstone Pictures, sabbath-reviews
探検船に乗り込んでいるドイツ人技師。スティーブには忠実だが、ネッドを妬んで意地悪をする。
ジェーン・W・リチャードソン(ケイト・ブランシェット)
Photo by Touchstone Pictures, thatmomentin
雑誌の女性記者。スティーブに関する特集を組むため、探検船に乗り込んでくる。
エレノア・ズィスー(アンジェリカ・ヒューストン)
Photo by Touchstone Pictures,spielfilm
スティーブの妻。夫の身勝手に呆れ果て、離婚の危機にある。
アリステア・ヘネシー(ジェフ・ゴールドブラム)
Photo by Touchstone Pictures,breakinggeek
エレノアの元夫で、別の船の船長。スティーブとは宿敵関係。
🌊まとめ:『ライフ・アクアティック』はウェスとオーウェンの友情から生まれた映画🌊
今回はもっぱらオーウェンとウェス・アンダーソンの関係についてのエピソードで終始しましたね。
☑ ウェス・アンダーソンとオーウェン・ウィルソンは大学時代からの親友。
☑ オーウェンはしばしばアンダーソン映画の製作にも携わっていた。
☑ アンダーソンはオーウェンの『エネミーライン』がお気に入り。
☑ アンダーソンは、オーウェンがコメディアンとして知られる現実を苦々しく思い、イメージ払拭のために『ライフ・アクアティック』のネッドを書いた。
この映画は、まさにウェスのオーウェンに対する友情の集大成ですね。
「で、ネッドって具体的にどんな人なの?」
はい、そこはぜひ次回から書いていくつもりです。ネッドはオーウェンの性格を細かいところまで映し出した役柄。1つひとつ丁寧に見ていきますね。
つづく➡