アメリカで大ヒットし、日本でも一定の人気を持つ『ウェディング・クラッシャーズ』。主人公ジョンをオーウェンが演じたことも大きなプラスとなって、単なるコメディを超える感動的なストーリーに仕上がっています。
Photo by New Line Cinema
・公開:2005年
・ジャンル:ロマンスコメディ、ドラマ
・時間:119分
・出演:オーウェン・ウィルソン、ヴィンス・ヴォーン、レイチェル・マクアダムス、ブラッドリー・クーパー、他
しかし、オーウェン本人は必ずしも自分の演じた役を気に入っていたわけではありません。
ジョンの人物像でオーウェンが特に嫌っていたのは、
❶女遊びをする
❷嘘の素性を語る
❸親友に冷たい
の3つ。しかし、受け入れがたい性質に正当性を持たせて演じてしまうのは、いかにもオーウェンらしいところ。
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つまり、【ジョンの欠点】と思われる言動が、じつは「不幸なジョンの自立と成長を表す」仕組みになっているのが面白いんです。
例によってオーウェンは脚本をある程度変更して、ジョンという役柄を脚本の100倍魅力的に演じました。
💛「僕はこんなことしないよ!」オーウェンが嫌うジョンの性格💛
音声解説でオーウェンは自らが演じるジョンを「善人ではない」と呼び、「僕はこんなじゃないよ」と、挑戦的に否定しています。
その1︰女たらしであること
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オーウェンの性格をご存じの方なら、言わずもがなだと思いますが、彼が何を嫌うってプレイボーイほど嫌うものはありません。
ジョンは女遊びを娯楽にしていますから、オーウェンにしてみれば、最も軽蔑に値する男でしょう。
オーウェン:そもそも夜遊びなんて、30を過ぎた男がやることじゃないよ。僕は学生の頃、中年のおじさんがバーで飲んだりしているのを見つけると、何て変な男だろうと思っていたんだ。
オーウェンの価値観の上では、わざわざお酒を飲みに繰り出すことじたい、あまり感心しないようです。実際、彼は友達に誘われた時以外は、積極的に飲みに行くことはないみたいですね。
しかし、そこはやはりオーウェン。ジョンが根は真面目な男であること示すシーンをいくつも盛り込んでいます。
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その2:嘘の素性を語る
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ジョンとジェレミー(ヴィンス・ヴォーン)は行く先々で、お涙頂戴の身の上話をしゃべって女の子の同情を引き、ベッドインまで持っていきます。
オーウェンにしてみれば、ただでさえプレイボーイが大嫌いなのに、嘘までついて女を引っかけるなんてもってのほか!
苦々しい気持ちで演じていたのは想像に難くありません。
オーウェン:観客がジョンを応援したくなるのは、サック(ブラッドリー・クーパー)があまりにも嫌なヤツだからだよ。ジョンも善人じゃないけど、サックよりはマシだからね。
ヴィンス:えっ、ジョンは善人じゃないのか?
オーウェン:だって嘘つきじゃないか。やっぱり善人じゃないよ。僕はあんなことしないもん!
オーウェンの正直さが分かる発言ですね。
その3︰親友に冷たい
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ジョンはジェレミーの親友にもかかわらず、ジェレミーが災難に遭った時はいっさい無視します。
さすがにびっくりですよね! プレイボーイやそれにまつわる嘘を何とも思わない人でも、この冷たさには驚くと思います。
オーウェンは特に「レイプの話を聞いても顔色を変えない」展開に驚いていました。
そもそもこの映画の時、音声解説でオーウェンはcrazyを連発しています。
食事中にジェレミーの下半身に手をのばすグロリア、ジェレミーがベッドに縛られているのを見ても気にしない長官、初対面のジョンに自分の胸を触らせる長官夫人…。
あまりに非日常的なシーンが多いので、オーウェンが呆れるのも無理はありません。
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💛オーウェン、ジョンの好感度アップに成功!💛
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ジョンはオーウェンが眉をひそめる要素でいっぱいの役ですが、それでもなぜか素敵な人物に思えてしまいます。オーウェンは「サックよりはマシだからだろう」と言っていますが、それだけではなさそうです。
ジョンが魅力的なのは、オーウェンがジョンの言動を観客に納得させてしまうのに成功したから。
ヴィンス・ヴォーン演じるジェレミーがあまりにも常識外れで目も当てられない人物像であることも、結果的にジョンのイメージアップに繋がっています。
ジョンの両親が事故死したことが人生が狂い始めた原因?
オーウェンの8歳頃の写真
Photo by schoolyearbook
ジェレミーのマシンガントークに話が混ざるだけなので、うっかり見落としている人も多いかもしれませんが、ジョンは身寄りのない孤児という設定。
ジェレミー:小さな男の子が誕生日の1か月前に、不幸にも両親を事故で亡くしてしまった。その時、親友の俺は誓ったんだよ。彼の誕生日には必ず一緒に過ごすってね。
映画中、ジェレミーが2回もジョンの家に泊まる話をするのは、子供の頃からの誓いを守っているからです。
親の変死という設定は、オーウェン自身が奇妙な形で母親を失った過去と重なります・・・(👉兄弟と遊ぶことも許されなかった! ― 子供時代はまるでシンデレラ②)。
このジョンの生い立ちに関するくだりは元の脚本にはありません。オーウェンの子供時代をほのめかすように、監督が挿入したのではないかと思います。
何はともあれ、両親が生きていれば、ジョンはもっとまともな青春を送れたのではないでしょうか?
ジェレミーの支配下に置かれたジョンの境遇
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ジョンは天涯孤独で、子供の頃から半分ジェレミーに育てられたようなもの。映画が始まってしばらく、ジョンは何でもジェレミーの言いなり。結婚式に潜り込むのも、専ら乗り気なのはジェレミーで、ジョンは嫌がっています。
「ジョンはジェレミーに恩義があるために、言うことを聞かざるを得ない」という雰囲気。
言い方を変えれば、ジョンは幼少期からジェレミーの狂った価値観で教育され、その生活を押し付けられたわけです。
クレアに出会うまでは、ジェレミーの操り人形のような人生だったと考えると、ジョンがかわいそうになります。
ジョンの反抗と自立
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ジョンがジェレミーの窮状を無視するのは一見ひどいですが、それまでジョンを支配してきたことが分かると、因果応報とも言えます。
ジェレミーがジョンを弟のように可愛がったのは事実でしょう。しかしさっきも書いたように、彼はジョンの青春時代を不健康な思い出で満たしてしまった存在。映画の序盤では、ジョンが結婚式に潜り込むのを嫌がっても叱りつけ、無理やり女遊びをさせています。
クレアに恋してはじめてジョンは自分の意思を通す方法を覚え、ジェレミーに反発するようになりました。先に挙げたような冷めた態度は、これまで我慢した反動と言えるかもしれませんね。
冷たい態度は鬱積した恨みの現れ?
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ジョンが冷たい理由の1つは、そもそも彼がジェレミーを信じていないせいもあります。サックに押し倒されても、レイプされた話をしても、ジョンはジェレミーの作り話としか思ってないのです。
実際ジェレミーは大嘘つきだし、ジョンを騙したことも多いでしょう。ジョンに信じてもらえなくても自業自得だと思います。
確かに、ジェレミーが撃たれたあとに彼を放り出してクレアとデートに出かけるのは、さすがに利己的かもしれません。
しかし、ジョンも人間。彼は自分で感じている以上にジェレミーへの恨みが積もっていたのではないかと思います。ジョンは30代前半。映画のストーリーを遡って考えれば、ジョンは少なくとも15年以上ジェレミーの理不尽な保護下にあったのです。
あなたがもし、恩義はあるとはいえ常識外れでメチャクチャな人生観を持つ人から、当たり前の青春時代を奪われたと知ったら? やはりいくらかは憎らしく感じても無理はないでしょう。
ジョンはまさに、そうした感情を抱いていたのだと思います。
💛『ウェディング・クラッシャーズ』はジョンの自立の物語💛
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オーウェンはジョンの人物像を批判しながらも、結局は彼らしい性格に変えて魅力的に演じました。かくしてジョンは(オーウェンが演じた多くの役と同様に)プレイボーイではなく、【環境の犠牲者】のイメージになっています。
ジョンとジェレミーの友情がうわべだけのものに近いことも、ストーリーの大事なポイントでしょう。2人の価値観の違いは後半の展開の伏線にもなっています。
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この映画はバカバカしい下品さが鼻につく一方で、「環境の犠牲者となったジョンが自分らしく生きる道を見出す」ヒューマンドラマのような面があります。
もちろん、そうなったのはひとえにオーウェンのおかげです!