映画『幸せの始まりは』マティーを巡る撮影エピソード
『幸せの始まりは』の明るくて優しいマティー。この役の魅力はすでに2回にわたって記事に取り上げました。
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Photo by ©︎Columbia Pictures.LLC
・公開:2011年
・ジャンル:コメディ、ロマンス
・時間:121分
・出演:リース・ウィザースプーン、ポール・ラッド、オーウェン・ウィルソン、ジャック・ニコルソン他
今回もテーマはマティー。しかし、これまでの2回とは異なり、製作裏話に重点を置いてお話ししていきます。
この映画を知らなくても気軽な読める内容なので、ぜひ最後までどうぞ。
🌷オーウェンはマティーをどう演じたか🌷
マティーが脚本の設定と違って、少しもプレイボーイに見えないのは、これまでに書いてきたとおり。
では、オーウェン本人はこの役をどう捉えていたのでしょうか?
明るい性格を演じるのはプレッシャーだった?
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「演じるのは楽しかった?」と、監督に問われて、オーウェンは
「もちろん。でも、いつも陽気で明るい性格を演じるのはプレッシャーでもあったよ」
と、答えていました。
ブルックスが脚本で描いたマティーは陽気で能天気なプレイボーイ。およそオーウェンの対極にあるイメージですね。
「あれ? オーウェンって陽気なプレイボーイ兄ちゃんでしょ?」そうおっしゃるということは、初めてこのブログに来てくださった方ですね? いいえ、オーウェンはとても真面目な男性ですよ。
私が言うだけでは疑うのでしたら、ブルックス監督の↓この言葉を読んでください。
ブルックス監督:きみとは正反対の役をよく演じてくれたね。
監督はあくまでもマティーを「能天気なプレイボーイ」として描きました。その彼が「マティーとオーウェンは正反対の性格」と言ったのであれば…、もうお分かりですね?
オーウェン=プレイボーイの図式が頭から離れていない方でも、これを聞けば、納得せざる得ないと思います。
最初のシーンは何度も撮り直した
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マティーが最初に登場するシーン。ファンへのサインと写真撮影を済ませたマティーはリサ(リース・ウィザースプーン)を抱き上げて自分のマンションに連れていきます。
いかにも明るくリサを誘うこの場面、実はオーウェンはNGシーンを連発。陽気に演じようとすればするほど、オーウェンがコチコチになってしまったせいです。
監督はオーウェンに暗示(?)をかけながら、どうにか撮り終えましたが、こういう底抜けに陽気なシーンはオーウェンにとってちょっと難しかったのでしょうね…。
マティーの人物像はオーウェンらしく変化
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オーウェンはマティーという役柄にちょっと批判的。
オーウェン:何でも点数を稼ごうとする男なんだ。『ほら、見て! 僕はこれができるんだよ。1ポイントちょうだい!』って、いつもこの調子。リサが競争しようとけしかけたりしたら、たぶん彼はすぐ走り出すと思うよ。(中略)どうしても凹まない男でうらやましいよね。
オーウェンとは似ても似つかない人物として描かれたマティー。生真面目で真剣な人生観を持つオーウェンが眉をひそめるのは当然かもしれません。
でも実際には、オーウェンが演じることで、マティーのプレイボーイの気配はすっかり消えています。極端に能天気にも見えません。
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即興性に優れたオーウェンは、『マーリー』や『ミッドナイト・イン・パリ』などの数作品を除けば、どんな役でも自分の個性を活かして魅力的に変えてしまいますね。
オーウェン自身、マティーの能天気ぶりに呆れながらも、どこかこの役に愛着も持っているようです。
オーウェン:何人もの記者と話して分かったことだけど、みんなマティーを嫌味に感じてないみたいなんだ。たぶん、彼がいつも率直だからだと思うな。(中略)マティーは自分でも成長しなくちゃいけないとは思ってるんだよ。
結局マティーはオーウェンの色に染め上げられ、とても愛らしく魅力的な役になりました。
🌷製作をめぐるあれこれ🌷
この項目では、ちょっと雑多に舞台裏エピソードをご紹介しましょう。
もともとマティーは最初のシーンのみに登場する予定だった
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当初の予定では、マティーはほんの冒頭しか登場しないはずでした。でも、ブルックス監督は脚本を書いているうちにマティーに愛着を持ち、出番をかなり増やしたのです。
これは個人的な意見ですが、マティーの出番が最初のシーンだけだったら、きっと退屈したでしょうね…。
野球選手にも関わらず野球シーンはなし
マティーはメジャーリーガーの設定ですが、野球のシーンは1つもなく、ユニフォームを着ているシーンとウォーミングアップをしているシーンがあるだけです。
監督:マティーが野球選手というのはどうも空想じみている。
確かにオーウェンはインテリ派ですから、野球はまるで似合いません。
こう言うと監督に失礼ですが、この映画にスポーツは本当に必要だったのでしょうか? ヒロインのリサもスポーツシーンはほとんどないし、ファッションデザイナー(→リサ)と建築デザイナー(→マティー)のカップルに設定しても話は成り立つでしょう。
「こんなシーン、なかったよね?」自撮りシーンの謎
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リサと喧嘩したマティーが電話に出ない彼女に何時間も電話しつづけ、しまいには自分の悲しんでいる表情を写真に撮って、メールで送るシーン。
さて、この場面には奇妙な裏事情があります。音声解説時にこの場面に差し掛かると、オーウェンはびっくり仰天!
オーウェン:こんなシーン、あった?
ブルックス監督:他の撮影の合間に撮ったんだよ。
オーウェン:脚本にはなかったよね?
ブルックス監督:あったよ。
オーウェン:どうしても思い出せない・・・。
オーウェンが中でも驚いたのは、自撮り写真をメールする部分。
オーウェン:今、何をしたの?!!
ブルックス監督:「僕の顔を見れば悲しみの深さが分かる」と言って、自分の顔を写したのさ。
オーウェン:顔を写して・・・、相手に送るの?! 自分の顔を?
自分の顔写真を人に送ったりするのは、控えめなオーウェンがとても嫌がる行為。かわいそうに、このシーンを知ったオーウェンは絶句してしまいました。
確かに、セリフに自撮りを意味する言葉はありませんから、オーウェンはてっきり鏡代わりに携帯電話を掲げただけだと思っていたのかも・・・。
よほど不思議だったらしく、オーウェンは繰り返し「元の脚本にはなかったよね?」と、聞いていました。
これはどうしたことでしょう? 普通は、映画に出演した俳優が自分のシーンを覚えていないなどあり得ません。
この部分の撮影に関して、ブルックス監督は明らかに嘘をついています。
オーウェンが必死に問い詰めた時→「もともと脚本にあった」と回答。
他のスタッフと歓談している時→「後から思いついて挿入した」と語る。
ブルックス監督は、オーウェンが嫌がる事を懸念して、何かうまく騙して撮影したのでは・・・???
ちなみに、リサに「きみが出て行った後、僕はランプを叩き壊した」と読み上げる時に映るメモはオーウェンの筆跡です。しかし、予告編に出てくるメモは本編と別物。監督によれば、メモは何枚か用意してあったようです。
腕時計は【婚約の予約】を意味する
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リサの誕生日、マティーはダイヤの腕時計をプレゼントします。ここは作中、最高に明るくてロマンティックなシーン。
マティー:これは婚約の予約。僕の父は母に時計を贈った7年後に婚約したんだ。
製作者たちの解説によれば、この風習は実際に過去の歴史にあったのだそう。「一緒に時を共有する」という意味でしょうか。
マティーのロマンティックな性質が垣間見え、アンティークなものを好むオーウェンにとても似合うシーンに出来上がっています。
ただ、マティーが包装紙を破ってしまうのには違和感があります。後でジョージ(ポール・ラッド)がゆっくり待つことと対比させているのですが、ジョージは全体にせっかちなイメージですから、全くのあべこべです!
おまけに、ジョージのあのプレゼント! あれはいくら何でも論外でしょう。物語がついていようとなかろうと、古ぼけた粘土なんてケチくさいと思いません?
「飾りのついたバスローブ」はオーウェンのアドリブ?
リサから時計を返されてしまう最後のシーンで、マティーは
「本当は飾りのついたバスローブにするつもりだったんだ。でも、時計に舞い上がって・・・。情熱ゆえの過ちさ」
と、不安げに言いますが、これはオーウェンのアドリブ。
いかにリサのプレゼントを真剣に選んでいたか伝わる言葉ですね。
マティーの優しい愛情を考えると、あの結末は本当にかわいそう…。まあ、数時間も経たないうちにリサは帰ってくると思うから、心配はありませんけどね。
本編と異なる結末を彷彿とさせる写真
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↑この写真、翌日リサが帰ってきたシーンに見えるんですよね。なぜかというと、
❶この写真のシーンが本編のどこにも見当たらない。
❷マティーは嬉しいけどちょっとスネた表情。
❸リサは一生懸命に詫びている雰囲気。
❹部屋の明るさが明らかに朝か昼。
❺リサもマティーも誕生日パーティーの時のままの服装。
など、後日談の雰囲気を感じるポイントがいくつもあるからです*1。
個人的には、映画が終わった後の当然の成り行きが映し出されているようで、とても好きですね。
さて、ここでこの映画の主要なエピソードは終わりなのですが、共演者に特筆すべき面白い俳優がいるので、次にその人物を簡単に紹介して締めくくりたいと思います。
つづく➡️
*1:この写真、オーウェンの指とスーツの裾の部分に加工した跡がありますが、これは制作会社が見栄え良くするためにちょっと手を加えたものだと思います。
ブルックス監督はデジタル加工に積極的な面があり、本編の音声解説でも「編集で役者の顔が紅潮したように見せることもできる。自然になるのが一番いいが・・・」と語っていますし…。