4つの殺人事件を推理!『ザ・マイナスマン』のターゲットは誰?
キャッチコピーやあらすじ紹介に反して、じつはまったく無実の主人公ヴァン。このことに関しては、↓こちらで詳しく解説しています。
ヴァンが連続殺人犯なら、この映画はごく単純に終わってしまいます。しかし、そうでないとなれば、ストーリーは一気に怪しい雰囲気に包まれ、登場人物の善悪がひっくり返っていきます。
Photo by ©TSG Pictures
公開:1999年
ジャンル:スリラー
時間:111分
監督:ハンプトン・ファンチャー
出演:オーウェン・ウィルソン、マーセデス・ルール、ブライアン・コックス、他
「じゃ、今日は犯人を教えてくれるのね?」と期待しているあなた、ごめんなさい。この映画はそんなに簡単ではないんです。
《Are you here》と同じく、『ザ・マイナスマン』も複数人による犯罪を示唆しています。
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犯人を割り出すには、「そもそもなぜ犯行に及んだのか?」を考えないといけません。
検証のため、映画の中で起きた4つの事件をじっくりと見ていきましょう。
被害者はドラッグ中毒の女キャスパー、新人フットボール選手のジーン、得体の知れないサラリーマン、そしてヴァンを可愛がってくれた下宿の女主人ジェーンです。
・キャスパーは軽はずみな性格のために殺された
・ジーンが死んだのは言葉遣いのせい
・謎のサラリーマンは自分のミスで死亡
・ジェーンは夫の悪事を知ったために殺された
まだ内容や登場人物がお分かりでない方は、先に映画を観るか↓こちらの記事をご覧ください。
結論を先に言うと、実は本命の殺人は4人の誰でもありません。犯人の本当のターゲットは主人公のヴァン。
さあ、あなたもぜひ一緒に推理してみましょう!
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🍹殺害現場と容疑者たち🍹
本作で亡くなるのはキャスパー、ジーン、謎のサラリーマン、ジェーンの4人。
「犯人は〇〇だ!」という前に、4人それぞれの状況を見て犯行の機会や動機を考えるほうが面白いでしょう。
彼らの死の状況は謎を解く手がかりになります。
キャスパーのうかつなひと言
キャスパーとヴァン
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映画で最初に殺されるのが、シェリル・クロウ演じるキャスパー。飲んだくれのだらしない女です。
バーの店主がキャスパーを追い出した理由
バーのシーンはある種の不自然さが漂っています。キャスパー1人しかいない店内、突然怒り出す店主。
しかし、ここで注目したいのはキャスパーが店主に文句を言うセリフ。あえて英語の文でご紹介します。
キャスパー:I'm empty, in case you were keeping track.
店主はこの発言のあと機嫌が悪くなり、「おまえがいると厄介だ。出ていけ!」と、怒鳴ります。
ふつうバーの店主はケンカ騒ぎでも起こさないかぎり、客を叩き出したりはしないもの。この展開は非常に不自然です。
キャスパーのこの発言、字幕では「グラスが空っぽよ。見えないの?」と訳してありましたが、これはちょっとニュアンスが出ていません。
実は彼女が言ったのは、
「あんたって尾行ばかりして、あたしにはちっとも構ってくれないのね!」
雰囲気から見て、キャスパーは店主の愛人なんでしょう。彼女はグラスと自分の気持ちを掛け合せてこの発言をしたのだと思います。
さあ、これで店主が怒ったわけが分かったでしょう? この店主はヴァンを尾行していたのです。
事もあろうにヴァンの目の前で尾行のことを言われたのですから、パニックになったのもふしぎはありません。
キャスパー殺害の第一容疑者はこの店主です。
ゴミ箱が倒れたのはなぜ?
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キャスパーがバーの店主から追い出された後、次のシーンでは彼女はヴァンの助手席に収まっています。
彼女は結局車の中で亡くなるのですが、ここで奇妙なのは、大きなゴミ箱が倒れていたこと。
後でヴァンは必死に「ゴミ箱が倒れたのは風のせいかもしれない」と自分に言い聞かせますが、あんなに大きなゴミ箱が倒れるような風が吹いた様子はありません。
あの店主が潜んでいたのでしょうか?
いずれにせよ、あの店主にキャスパーの口を封じる理由があったのは確かです。
ジーンに酒を飲ませることができたのは誰?
ジーン(エリック・メビウス)
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次は若いフットボール選手ジーンが殺されたシーンを考えてみましょう。
まず、普通は車のダッシュボードに毒入りの飲み物を置いているだけで殺人に成功する確率は低いですよね? 置いてあっても気づかない人も多いでしょうし、目に入っても飲むとはかぎりません。
しかしジーンはすぐに目を留め、大量に飲んで死亡したのです。
ジーン殺害事件で疑わしいのはダグ。様子を察するに彼は自分の娘を殺したふしがあるし、映画の最後には妻ジェーンも殺しています。
ダグ(ブライアン・コックス)
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ダグがジーンを殺すことはできたでしょうか? 私はできたと思います。
その根拠は、
・ダグはジーンとヴァン両方の性格を知っている
・さり気ない会話からジーンの生活習慣を聞き出している
・ジーンの死の翌朝、何かをゴミ箱にこっそり処分するなど不審な動きを見せる
ジーンは普段から目についた飲み物をすぐに飲んでしまうタイプだったのでしょう。いっぽう、ヴァンは誰でも家まで送ってやる親切な青年です。
この事件を成立させるためには、ジーンとヴァン両方の性格を知っていなければできなかったと思います。
そして、この条件に当てはまるのはダグなのです。もちろん、翌朝にダグがゴミ箱でいろいろ捨てているのも根拠の1つです。
ところで、ジーンの事件にもゴミ箱が姿を表しましたね。ゴミ箱の登場という点がキャスパーの死とジーンの死を結びつけているように思えます。
ヴァンはジーンの危険を察知していた?
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もしかしたら、ヴァンはジーンの身が危険であることを悟っていたのかもしれません。
ジーンを迎えに行く前に、ヴァンが考え事をするシーンのセリフは象徴的です。
ヴァン:ドアマンの仕事もいいよなあ。人々を守ってあげられるし、常に様子を見ていて、必要とあれば助けに飛んでいくことだってできる。
ヴァンは練習を終えたジーンが夜遅く歩いて帰るのを心配し、プライドを傷つけないように通りすがりのふりをして車に乗せたとも考えられますね。
ヴァンはジーンがボトルに興味を持ったのに気づかなかった
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悲劇が起きた理由は、ジーンがボトルに執拗に興味を示したことにヴァンが気づかなかったせい。
車に乗ってすぐジーンはボトルに興味を示し、「ちょっと引っ掛けてもいいか?」と聞いています。しかし、ヴァンは上の空で返事をして、ジーンが【何を引っ掛けるのか】注意を払っていませんでした。
たぶん、ヴァンはジーンが手持ちのドリンクでも飲むと思っていたのでしょう。
ヴァンが気づいたのは、「おまえも飲むか?」と言われた時。あろうことか、あの不気味なボトルがジーンの手に握られているのを見て、ヴァンは青くなります。
ジーンがボトルから飲むのを見過ごしていたため、以後ヴァンはずっと後悔の念に苛まれるようになります。
サラリーマンの死は自業自得?
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3番めの被害者がカフェにいたサラリーマン。この男はひと言もセリフを喋ることなく「退場」するので、素性その他はまったく分かりません。
ちなみに、このサラリーマンを演じているのは原作を書いた作家ルー・マクレアリー。当人は善人役のつもりで出演したのかもしれませんが、あいにくストーリー上は「怪しい人物」のポジションです。
サラリーマンの妙な行動
問題のサラリーマンは急に席を立ち、ヴァンのそばに来て、中身が入ったコップを床にひっくり返します。
ふしぎなのは、このサラリーマンがコップを無視し自分のトレイも放ったらかしたまま手を洗いに行くこと。
警戒するヴァン
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サラリーマンがいない間に、ヴァンはとっさの警戒心でコップをすり替えました。男性は戻ってくると、ヴァンのそばからトレイを取って、最初とは別のテーブルに行きます。
ここで画面からサラリーマンは退場します。彼の死はヴァンを付け回す男の一人が告げるのみ。遺体は示されません。
ヴァンの視点から描かれた映画として考えると、「ヴァンはこのサラリーマンが死んだ様子を見ていない」と解釈すべきでしょう。
サラリーマンは悪党か?
さて、このサラリーマンはいったい何をしていたのでしょうか?
最初に座っていた自分の席を離れたのは、単にそばのテーブルが子供連れで騒がしかったからかもしれません。
しかし、ヴァンのそばでコップをひっくり返したのは少し不自然です。しかも散らかしたものをほったらかして手を洗いに行ったのはなぜでしょう?
これは私の推測ですが、このサラリーマンは犯人の一人で、誰かに毒を盛ろうとしていたのではないでしょうか?
しかし、危険を察知したヴァンがコップをすり替えたために誤って自分が死んでしまったのだと思います。
ジェーンが殺されたのはテープのせい
ジェーン(マーセデス・ルール)
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最後の被害者となったジェーンはダグの妻。彼女が殺されたのは、ヴァンが持っていた録音テープを聞いたためと思われます。
はっきりとは描かれていませんが、ヴァンは自分の推理や観察したことを録音テープに残しておいたようです。
この経緯には、なかなか暗示的なものがあります。時間系列をまとめると、
❶ジェーンがヴァンに相談し、彼が持っている録音テープに関心を持つ。
❷ジェーンがヴァンのテープを聞いているのをダグが見つける。ジェーンは「空のテープで何も入っていなかった」と答える。
❸ダグが「ジェーンがテープを聞いたが、何も入っていなかったらしい」と、ヴァンに報告。ヴァンは真っ青になるが、「中身は消したから、入ってなくても当たり前だ」と返事。
❹直後、ダグは躁鬱病の発作を起こす
❺ジェーンが部屋に籠ってしまう
❻ダグがヴァンのトラックを借りる
❼警察がジェーンの死を伝える
ヴァンはジェーンを庇おうとして嘘をつく
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ヴァンは、ジェーンがテープを聞いた事実を知って「テープは僕が消したんだ」と言いますが、もちろんこれは嘘。ジェーンの身に危険が及ぶのを恐れて、ヴァンはとっさに庇ったのです。
しかし、ダグは【妻とヴァンの両方に悪事がバレた】と分かっていたようです。
ジェーンは娘の写真を傍らに呆然と横になっている
ジェーンがテープを聞いたあと部屋に籠もってしまいました。私たち観客が彼女を目にするのはこのカットで最後ですが、この時ベッドサイドに娘カレンの写真が置いてあるのは象徴的。
たぶん薄々気づいてはいたものの、ヴァンのテープを聞いたことで、ジェーンは「娘を殺したのも夫だった」と分かったのでしょう。
ちなみに、ヴァンも何度もカレンの写真を心配そうに眺めるシーンがあります。
ヴァンとジェーン
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さて、ダグはジェーンが家事を放り出して部屋に籠もったことで、バレたと確信を持ちます。と、同時にこれまで罪を着せる役回りをさせてきたヴァンのことも、「これ以上利用するのは難しい」と考えたようです。
後は映画を観ればおわかりの通り、ダグはヴァンのトラックを借り、ジェーンを殺してしまいました。
しかしヴァンはジェーンが亡くなった翌朝、こう独り言をつぶやきます、「もしダグが犯人なら…ずいぶんヘマをやったものだ」。
あとはご存じのとおり、殺人犯としてダグは逮捕され、ヴァンは警察にまったく疑われることなく街を去って行きました。
🍹まとめ:4つの事件はバラバラかつ結びつく🍹
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こうして4人の被害者をそれぞれ見ると、状況もバラバラ。容疑者や動機も異なります。
・キャスパーは軽はずみな性格のために殺された
・ジーンが死んだのは言葉遣いのせい
・謎のサラリーマンは自分のミスで死亡
・ジェーンは夫の悪事を知ったために殺された
ジェーンだけが撲殺され、残り3人は毒殺。検出された毒物がすべて同じだったことが映画の中のニュースで流れています。
これが推理小説なら、「どれが本命の殺人か?」というのが問題になりますね。あなたは4人のうち誰を選びますか?
キャスパーは論外です。彼女は迂闊な性格のために葬られただけ。ジェーンも不都合な事実を握ったために殺されたので除外しましょう。サラリーマンも自分のミスと思われるので対象外。
残ったのはジーン。しかし…なぜか彼もメインのターゲットとは思えない…。
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この映画はヴァンの視点から描かれているため、謎を解くのに必要な要因はほとんどぼかされ、真相や動機を見えにくくしています。
無理もありません、ヴァンは薬を盛られているせいで、しょっちゅう記憶が途切れているのですから…。
実はヴァンこそがメインのターゲットなんです。連続殺人として有罪になれば、間違いなく死刑になります。
犯人はヴァンを死刑に追いやりたくて、連続殺人を繰り返しているわけです。
しかし、なぜ? ここは憶測を出ませんが、次回の記事でお話ししましょう。
つづく➡
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