オーウェン・ウィルソンの映画と性格

オーウェン・ウィルソン|知られざる性格をすべて公開!

『ナイト・ミュージアム』のカウボーイや『アルマゲドン』のオスカー、『カーズ』の主役の声を担当するなど、有名作品に数多く出演している、ハリウッドの人気俳優オーウェン・ウィルソン。そんな彼の真の姿について伝えるブログです。

ジョンは男性版オフィーリア?『ウェディング・クラッシャーズ』の悲しいシーン

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『ウェディング・クラッシャーズ』は約2時間ありますが、そのうち30分ほどは、脚本にない哀愁を帯びたシーンで占められています。

「コメディだから」と軽い気持ちで観ると、意外に心理的に重く、びっくりするかもしれません。

 単なるコメディに終わらないのは、後半になるにつれオーウェンの性質が色濃く出てきて、精神的な深みを感じさせるから。

 

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Photo by ©New Line Cinema

作品情報

・公開:2005年

・ジャンル:ロマンスコメディ、ドラマ

・時間:119分

・出演:オーウェン・ウィルソン、ヴィンス・ヴォーン、レイチェル・マクアダムス、ブラッドリー・クーパー、他

 

 あらすじ・キャストは↓こちらをどうぞ。

 

 この映画の後半はほとんどオーウェンのアイディアで、オリジナル脚本の痕跡はほとんど残っていません。脚本では、ジョンたちがクリアリー家を追い出されたあと、いくらかの情景を挟んで一気にラストに向かいます。

 

 しかし、オーウェンはジョンが絶望に苦しむシーンを入れ、この映画に悲痛な色を加えました。心理的に言うと、ジョンはオフィーリア*1に似たところがあります。

 オフィーリアが父と恋人にすがっていたように、ジョンも関心があるのは恋人と親友のことだけ。そして、この2つを失った時ジョンはオフィーリアと同じく精神の危うさを見せはじめます

 

 

 

💛ジョンを絶望のどん底に突き落とした出来事💛

Wedding Crashers Owen Wilson

Photo by ©New Line Cinema

 ジェレミー(ヴィンス・ヴォーン)から強制された結婚式に潜る生活から足を洗おうとするジョン。本作が「ジョンの自立と成長を描いたもの」であることは、↓こちら2つの記事でご紹介しました。

 

 ジョンは兄代わりに育ててくれたジェレミーに恩義を感じながらも、自分の青春に大きな汚点を残されたことに憤りも覚えています。

 無責任に楽しむことしか頭にないジェレミーと心の奥に眠っていた道徳観念に目覚めたジョン。当然、2人の関係には大きな溝が深まります。

 

 そして、ジェレミーはジョンの過去に傷跡を残しただけでなく、映画の後半では裏切りと言ってもいいひどい仕打ちをします。

クレアと音信不通になる

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Photo by ©New Line Cinema

 クレアに自分の汚れた過去を知ってもらおうとした矢先、サックから正体を暴かれてしまったジョン。詳しい事情を説明する暇もなく、ジョンはクレアに誤解されたまま屋敷を去ります。

 その後もジョンはクレアの誤解を解こうと何度も手紙を書きますが、まったく返事をもらえません。

 

 これは推測なのですが、たぶんクレアはジョンの手紙をわざと無視したのではなく、受け取っていないのだと思います。映像に映し出されるクレアの様子はジョンを愛し続けているのがはっきり分かるし、連絡を待っているようにも見えます。

 たぶん、ジョンからの手紙をすべて止めてた人物がいたのでしょう。状況から察するに、犯人はサックとしか考えられません。

 

 ちゃんとクレアの手に渡っていたなら、もっと早く誤解が解けていたはずでしょうに・・・。

苦しむジョンを横目にジェレミーは色恋を楽しんでいた!

Wedding Crashers John

Photo by ©New Line Cinema

 クレアに恋い焦がれるあまり、ウェイターのフリをして屋敷に忍び込んだジョン。しかし、すぐにサックから暴行を受けて追い出されてしまいます。

 計画を手伝ってくれる約束だったジェレミーはなぜか姿を見せず、何とグロリアとデートの最中!

 

 自分がクレアに恋い焦がれて苦しんでいる間に、ジェレミーが迷惑がっていたはずのグロリアとコソコソ付き合っていたことを知ったジョンは激怒! ジェレミーの弁解には耳を貸さず、連絡を断ってしまいます。

 

 ちなみに、オリジナル脚本では、ジョンとクレアが音信不通の間、ジェレミーもグロリアを迷惑がって連絡を断っているので、双方に喧嘩の原因はまったくありません。

ジョンはジェレミーの恋愛に怒ったわけではない

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ジョン(左)とジェレミー

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 ジェレミーが電話をしたり家に訪ねて行ったりしても、完全無視するジョン。一度怒ってしまうとなかなか許さないところはオーウェン本人の性格に通じるものがあります。

 オーウェンは心優しい反面、激しい怒りの感情を持ち合わせてもいるのです。

 

 ところでレビューを眺めていると、意外にジョンの怒りの理由が分かっていない視聴者も見受けられました。

「ジョンも本気で恋をしたのに、なぜジェレミーが恋をしたら許さないの?」という意見。残念ですが、またしても的外れなコメントと言わざるを得ません

 

 ジョンはジェレミーの恋愛そのものに怒ったのではないのです。しっかりと映画を観れば、すぐ怒りの理由は分かるはず。

 状況を整理します。ジョンとジェレミーの正体がバレてクリアリー家を追い出された後のことです。

・ジョンはクレアへの想いを捨てきれず、何度も手紙を送るが一方通行。

・ジェレミーは迷惑がっていたグロリアと交際を始める

・グロリアはクレアの妹

 

 さあ、もう分かったでしょう? グロリアとクレアは同じ家に住んだ姉妹です。ジェレミーはグロリアと交際しているわけですから、いくらでもジョンへの誤解を解いてやる機会があったはずなのです。

 ジョンの気持ちをグロリアに話し、グロリアからクレア、あるいは長官に伝えてもらうことは充分に可能だったでしょう。

 

 ところがジェレミーはジョンに秘密でグロリアと交際し、ジョンの苦しみを完全無視! これではジョンが怒って当たり前です。

花婿の付添いを頼むジェレミーは無神経の極み!

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 ジェレミーの思いやりのなさは、ジョンの誕生日に訪ねてみて、ようやく入れてもらえた時にさえ表れています。

 ちょっと長いですが、このシーンを引用してみますね。

ジェレミー:俺はおまえとの仲がこじれて悲しいんだ。おまえの友情の存在は大きかったからな。寂しいよ。

ジョン:うん・・・。あ、あの・・・きみに恋人ができてよかったと思ってるよ。きみのために嬉しいよ。

ジェレミー:それを言ってくれるとは感動だぜ!(中略)ところで俺、結婚するんだけどさ・・・

ジョン:出て行け!

ジェレミー:えっ? 今喜んでくれたばかりじゃないか!

ジョン:僕はやっとの思いで生きてるのに。自殺抑制の本を読んでるんだ。

(中略)

ジェレミー:ジョン、おれの結婚式ではおまえに付き添いを頼みたいんだ。

ジョン:頼むから帰ってくれないか!

 

 この場に及んでも、ジョンを取りなしてやる考えが浮かばないって、ジェレミーの神経は理解できませんね。

 ジョンが失恋の苦しみに耐えかねている時に、結婚の付き添いを頼むのはいくらなんでも非常識

 

 映画のラストでジョンはジェレミーと和解しますが、ジェレミーがいっさい謝罪しないのは納得がいきません。ジョンのほうは「怒りすぎて悪かった」と謝るのに・・・。

 この2人、映画が終わったあとはだんだん疎遠になったのでは?と思います。

 

 

💛ジョンはオフィーリアのような精神状態へ💛

オーウェン・ウィルソン ジョン

Photo by ©New Line Cinema

 クレアと会うこともできず、兄代わりの親友にも見捨てられたジョンは精神を病んでしまいます。単独であちこちの結婚式に姿を現しては、明らかに正気とは思えない言動ばかり繰り返します。

 

 ここもオーウェンが全面的に場面を構成していて、ジョンが悲しみのあまり正気を失っている様子を描き出しています。この一連のシーンはあまりにもかわいそうで、観ているだけで辛くなってくるほど。

 

 これだから、この映画はコメディと呼ぶのが憚られるんですよね・・・。

 

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オフィーリアの絵画

 正気を失ったジョンの言動は、『ハムレット』のオフィーリアを彷彿させます。

 オフィーリアは恋人に裏切られたショックで正気を失い、ついには水に身を乗り出して溺死してしまいます。

 死の直前、オフィーリアはところ構わず歩き回り、枯れ枝で妙な冠を作って頭に載せたり、悲しい歌ばかり歌ったりして周囲を困惑させます。

 この雰囲気が『クラッシャーズ』のジョンにそっくりなのは偶然でしょうか? 

 よく見ると、ジョンが被っている風船はヘビの形をしていますね。ハムレットの父親は信頼していた弟と最愛の妻に欺かれ、ヘビの毒で殺されてしまう設定。一方オフィーリアはおかしな花輪を作ります。

 何となくイメージが似てますよね?

「生きていけないと思ったことはないの?」

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 結婚の祝辞を述べるはずの場で、ジョンはあろうことか自殺をほのめかします

ジョン:生きていけない、って思ったことはないの? 僕はもう死んでしまいたい!

 字幕では「希望が消えていく気がしたことは? 僕はもう耐えられない」となっていますが、英語を見るともっとダイレクトに死を匂わせています。

花嫁から投げられた花束を投げ飛ばす

花嫁が投げたブーケを受け取ると次に結婚できる」という言い伝えがありますよね? この時はジョンが受け取ったのですが、なんと彼は受けた花束を投げ飛ばしてしまいます! ひんしゅくを買っても、なぜなのか分からない様子・・・。

 ジョンは精神の闇に沈む中で、クレアと楽しくフットボールをした時を思い出したのでしょうか?

・クリアリー家でフットボールをするシーン

 
 余談ながら、オーウェンはフットボールが得意なようです。特にスポーツが好きなタイプではないのですが・・・。

間違って花嫁にキスしてしまう

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 花嫁に挨拶しようとして、ぼんやりとキスしてしまい、またまたひんしゅくを買います。が、今度もジョンは何をしているのか分かっていないようです。クレアと結婚した気分になっていたのかもしれませんね。

風船で作った奇妙な冠を被り、子どもたちに悲しい話ばかりする

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 結婚式では、いつも風船でおもちゃを作って子供たちを喜ばせていたジョンとジェレミー。しかし、この時のジョンは風船で冠を作り、子どもたちにネガティブな話をしています

ジョン:愛なんてどこにも存在しない。坊やたち、よく覚えておくんだよ。僕はもう愛など叶わないと知っているし、友情もないと学んだんだ。

 子どもたちは異常な雰囲気に押されたのか、口も挟まずに聞いています。

 

 これ以外にも、

・食事が出ているテーブルからクロスを剥ぎ取る

・音楽の演奏中、急にハイテンションになり、ドラムに躓いて妨害。

・公共の階段で眠ってしまい、警備員から起こされる

など、異常な言動を繰り返します。愛の希望を失い、友情にも裏切られたジョンは苦悩のあまり精神の境界線を超えてしまったよう。

自殺願望と戦う

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 ジェレミーが訪ねて来た時に吐露したように、ジョンはついに自殺まで考えるようになっています。

 かわいそうに、ジョンは絶望のあまり自殺まで考えるほど追い詰められた心理状態

 ジェレミーが訪ねてきた日も、誕生日にも関わらず、『飛び降りたりするな! 人生には意味があるのだから』という本を読んで過ごしています。

 髪はボサボサ、ガウンを着たまま一心に読んでいる姿は見るも哀れ。

 

 しかし、一方で【自殺願望を抑制する】書籍を読んでいるのは、ジョンが必死に生きようと努力している証拠。ここにオフィーリアにはない意志の強さが窺えます。

 

 ちなみに、オリジナル脚本ではジョンはあくまでも強引にクレアを手に入れようとする姿勢を崩さないので、自殺など考えもしません。

 

💛葬式荒らしとジョンの気づき💛

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 正気を失ったオフィーリアは池に落ちて命を落としました。しかし、ジョンはある出来事をきっかけに生きる希望を取り戻し、ついに愛する人を勝ち得ます。

 そのきっかけとは、【葬式荒らし】! これもオーウェンが思いつきました。

 

 ショックを受けないでくださいね。葬式を荒らすのがメインなのではなく、オーウェンは未亡人の悲しみを見てジョンが夫婦愛の美しさを再認識するシーンを入れたかったのです。

結婚式荒らしの師匠チャズ

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 ジェレミーが女遊びのルールを教わったというチャズ(ウィル・フェレル)。ジョンは面識がなかったものの、自暴自棄になって気まぐれに会いに行ってみます。

 行ってみると、チャズは「最近は葬式でも女を引っ掛けている」と語り、嫌がるジョンを無理に葬式に連れていきました。

 

 オリジナルではチャズは名前が語られるだけで、画面にはまったく登場しない予定でした。

 しかし、オーウェンが葬式で愛に目覚めるシーンを入れたために必然的にジョンを葬式に連れ込む存在が必要になり、急遽チャズ役にウィル・フェレル*2が抜擢されたそうです。

老婦人の涙を見て愛を信じる気持ちを取り戻す

 ジョンが連れて行かれたのは、老人男性の葬儀でした。

 チャズが嘘っぽく泣き声を上げるそばで、ジョンは嫌な思いで立ち尽くしていましたが、未亡人がしゃくりあげて泣いているのを見つけます。

 

 ここがオーウェンが最も強調したかった大事なシーン。絶望に打ちひしがれていたジョンは、夫と死別した妻の涙を見て、

・愛が存在すること

・生涯続く愛は夢ではないこと

を再認識するのです。

 これこそが映画の重要なテーマで、理性を取り戻したジョンはジェレミーの結婚式ですべての不和を一掃し、クレアと結ばれます。

 

 クレアに告白する感動的なシーンについては、⬇第3回めの記事に取り上げたのでどうぞ。

 

💛オーウェンが出演すると、決して軽いコメディにはならない💛

 オーウェンが出演すると、コメディでも心理的深みが増すことが多く、ただ笑って終わる映画にはなりません。

 だからこそ、素敵な作品に仕上がるのですが・・・。

『ウェディング・クラッシャーズ』も、ただ笑いたいだけの人には向かないでしょう。でもリラックスタイムに、楽しみつつ人生についてじっくり考えたい方にはとてもオススメです。

 

 

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*1:シェークスピアの『ハムレット』のヒロイン。

*2:オーウェンはさりげなくウィルに出演の場を提供したとも言える。オーウェンはしばしば、あまり出番がなかったり、今ひとつパッとしない俳優を立ててあげることも多い。