『ホーンティング』の城はエレノアだけでなくルークにも語りかける
亡きヒュー・クレインが工場でこき使った子どもたちの霊がウヨウヨいる『ホーンティング』の城、ヒルハウス。当のクレイン自身も相変わらず城に住みついていて、子どもたちを脅かしています。
ヒロインのエレノア(リリー・テイラー)が自分の身を犠牲にして、苦しむ子どもたちの霊を救い出すのが映画の結末。
ストーリーはエレノアの目線で描かれ、観客は彼女とともに霊的現象を味わうことになります。
Photo by ©DreamWorks Pictures
が、城が語りかける相手はエレノアだけではありません。
子どもたちはルーク(オーウェン・ウィルソン)にも助けを求め、悪霊クレインは彼のことも敵視しています。
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ここでは、ストーリーで果たしたルークの役割について書いていきます。意外な発見があって、『ホーンティング』がもっと面白くなりますよ。
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🏰ルークはエレノアよりも先にヒルハウスの闇を知っている🏰
一本の電話に誘われてヒルハウスを訪れたエレノア。彼女は何も知らない状態で暮らしはじめ、霊的現象に遭遇するたびに手探りで真相を探っていきます。
いっぽう、ルークはヒルハウスに来る前から何もかもお見通し。
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事実、ルークを演じたオーウェン本人はこう言っています。
オーウェン:ルークは屋敷で何が起こるかを知っているんだ。だから、到着前から心構えはできているし、対策も取っている。でも、自分が調べていることを周りに悟られないために、わざと斜に構えたような態度でごまかしているんだよ。
子供が虐待されていたことを映画で初めて語るのがルーク
ルークがすべてを知っていることは、ヒルハウスでの最初の朝、エレノアと2人で会話している時に分かります。
ルーク:ヒュー・クレインが子供好きだなんて信じられないよ。やつは子どもたちを虐待したんだぜ! 1日に16時間もこき使った。で、宣伝のために子どもを可愛がっていることにしたのさ。
「ヒュー・クレインが子どもたちをこき使って虐待した」という過去を、映画で初めて語るのがルーク。
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この時点でエレノアはあまり関心を向けませんが、あとで霊の導きで過去の記録を読み、多くの子どもが虐殺されたことを知ります。
ルークの情報通ぶりにはびっくりさせられますね!
子どもたちはルークにも呼びかけている
ここは見落としてしまった人も多いかもしれませんが、子どもたちの霊はルークにも助けを求めています。
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初日の夜、ルークが怯える女性たちの様子を見に来たシーンを思い出してください。
ルーク:大丈夫?
セオ:聞いたでしょう? これも実験なの?
ルーク:何が?
セオ:変な音のことよ!
ルーク:僕が聞いたのは、「助けて!ルーク、お願い」ってきみが叫んだ声だよ。
セオ:あたし、そんなこと言ってないわ!
確かにセオ(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)はルークを呼んでいません。つまりルークが聞いたのは子どもたちの幽霊の声。
あとで何度もエレノアに近づいてくる子どもたちは、ルークが口マネしたのとそっくりに「助けて、エレノア!お願い」と言います。
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翌朝、ルークは子供の顔が彫られた飾りを「不気味だ」と観察し、「これが歌いながら語りかけてくるんだから、ゾッとする」と言います。
つまり、子どもたちの彫刻が動くのもエレノアよりルークが先に見たわけです。
ルークはエレノアを霊現象から守りたい
ルークが子供の虐待を語るところは、作中で唯一エレノアとルークが2人きりで向かい合うシーンでもあります。
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エレノアと2人きりの時、ルークの底抜けに明るい雰囲気は影を潜め、真剣で知的な面を露わにします。
もしかしたら、これが本当のルークの姿なのではないかと思いますね。
ルークは「セオに恋した」と口では言いながら、実際には誰のことよりエレノアを気にかけているところが見られます。
初めから屋敷の闇を知り尽くしているルークは自分だけで解決しようとし、何とかエレノアを関わらせまいとします。
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屋敷のおぞましい過去を知ってエレノアが取り乱すシーンでルークを見てください。
マロー博士(リーアム・ニーソン)やセオが妄想と決めつけるのに対し、ルークは黙って目に涙をためながらエレノアを見つめています。
ルークだけはエレノアの様子が分かっているのです。そして、彼女をこの件から引き離すのが不可能だということも…。
ルークとエレノアは同じ道を辿る
エレノアを霊現象から遠ざけるのに失敗し、全員が屋敷から出られなくなると、ルークは逆上して、燭台でヒュー・クレインの肖像画をメッタ切りにします。
ルーク:この野郎!とっとと地獄に行きやがれ!ぜんぶお前のせいだ!
ちなみに、オーウェンは「このシーンで燭台で顎を強打して、何針か縫う羽目になったよ」とインタビューで語っていました。
DVD特典のメイキングを観ると、ルーク最期のシーンはかなり大掛かりで危険なアクションの連続! またまたオーウェンはそうとう身体を張った演技をこなしています。
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ストーリーに話を戻しましょう。肖像画を切り裂いた直後、ルークはライオンの置物に殺されますが、これは不慮の事故には見えません。
ルークには逃げる暇はいくらでもありました。彼はあえて悪霊の怒りを自分に向けさせたんだと思います。
その証拠に、ルークは近づいてくるライオンの頭を凝視して、一撃をまともに受けました。
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普通なら走るなり、しゃがむなり、とっさに襲われまいとするはずですから、わざと逃げなかったとしか考えられません。
その後エレノアは襲いかかるヒュー・クレインに立ち向かい、子どもたちと昇天していきます。
つまり、ルークとエレノアは同じ目的を分かち合い、他人を守るために命を差し出したんですね。
エレノアは言うまでもなく、ルークも自己犠牲精神のある勇敢な少年。
2人は表面で理解し合うことはなかったけど、根底では同じ思いを分かち合っていたように見えます。
🏰『アルマゲドン』と同じく大半はオーウェンの創作🏰
おませで明るく、それでいて賢いルーク・サンダーソン少年。
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でも、実はオリジナルの脚本ではまったく違う人物像でした。映画に見るルークの性格・セリフは、95%以上オーウェンのアドリブ。
オリジナル脚本の原型をほとんど留めていない点では『アルマゲドン』のオスカーと同じですね。
しかもルークは『アルマゲドン』のオスカーと違ってメインキャラクター。
オーウェンのアドリブによって映画そのものの雰囲気が変わった、と言っても過言ではありません。
オリジナル脚本のルークは賞金稼ぎ!
いちばんびっくりしたのは、オリジナルではルークが【ずるい賞金稼ぎ屋】だったこと!
ヒルハウスに来たのは、不眠症実験の賞金目当てです。
オーウェンが演じた人物像とまったく違う点を挙げると、
・ヒュー・クレインのことを何も知らない
・幽霊の声を聞かない
・賞金と城での快適さに満足しきっている
・週給が遅れると文句を言う
・夜型人間で、本当に眠りが浅い
どうでしょう? 完成した映画のルークとはあまりに違いますよね?
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どちらのほうが魅力的なキャラクターかは、言わずもがなです。
ラストの言動もまったく異なる
オリジナル脚本では、ルークは周囲の止めるのも聞かずに館に火をつけ、ライオンの置物に背後から襲われて死亡します。
些細なことかもしれませんが、「背後から襲われる」のと「前から襲われるのを受け止める」とでは、全然イメージが違います。
おまけに、勝手に火を点けるなんて非常識と思いません?
🏰まとめ:オーウェンの個性でルークは魅力的な人物像へ🏰
さっきも書いたように、ルークというキャラクターの95%はオーウェンの創造。
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オリジナル脚本の賞金稼ぎのイメージから、「おませで愛らしく、それでいてすべてを知る賢い少年」に変えたオーウェンの才能には感心します!
・ルークはエレノアよりも先に屋敷の秘密を知っていて、エレノアが味わう怪奇現象のすべてを理解するが、深入りさせまいとしている。
・ルークの死は偶発的ではなく、覚悟を決めた自己犠牲。
・ルークの人物像は95%以上オーウェンによって作られた。
どのサイトでもまったく触れられていない、『ホーンティング』のルークの劇中での位置づけについてお話ししました。
次回『ホーンティング』を観るときの参考にどうぞ!