『ザ・マイナスマン』誤解されたサスペンス映画|あらすじと感想
《The minus man》という映画を聞いたことがありますか? 1999年に公開された、ちょっとミステリアスなストーリーです。
連続殺人犯のストーリーと宣伝されているので、オーウェンが演じた唯一の悪役かと思ったら全然ちがいました!
この映画はパッケージもキャッチコピーも忘れて、作品をそのまま信じて観るのが1番楽しめます。
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🍹日本版パッケージが詐欺に近い🍹
日本では『クアドロフォニア−多重人格殺人』としてDVDが出ました(現在は中古のみ)。が、これは誤解を招くタイトルとパッケージです。
よくもここまで内容とチグハグなパッケージを作ったものだと呆れますね!
この表紙とタイトルが気持ちが悪くて、私もしばらく観るのをためらってしまったほど…。
多重人格のストーリーではなかった!
このパッケージをデザインした人、ちゃんと映画を観たんでしょうか?
血は一滴も流れないし、オーウェン演じるヴァンは多重人格ではありません。
Photo by ©TSG Pictures
俗に言う【パッケージ詐欺】ですね。この映画がマイナー止まりなのも、こういうチグハグな宣伝に原因がありそうです。
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いい映画なのに、もったいない…。
ちなみに、外国版のパッケージは↓これ。
Photo by ©TSG Pictures
日本もよけいなことをせず、このまま出せばよかったのに…。
ということで、以後このブログでは、この映画を『ザ・マイナスマン』と呼ぶことにします。
《Are you here》の先駆け的な映画?
私はこの映画を観て、《Are you here》(こちらもオーウェン主演)の縮小版のような印象を受けました。
ストーリーはまったく違いますが、心優しい青年が集団犯罪の犠牲になる展開や曖昧模糊とした雰囲気が似ています。
《Are you here》については、8回の連載で解説しているので、↓よければ併せてどうぞ。
そういえば、《Are you here》も宣伝が悪かったせいで正当な評価を得られませんでした。
🍹あらすじ🍹
日本語で書かれたまともなあらすじがまったく存在しないので、ここでご紹介しようと思います。
※以下はストーリーの重要な核心・結末に触れています。苦手な方はご遠慮ください。
起:不審死、相次ぐ
映画は青年ヴァン(オーウェン・ウィルソン)が自分のトラックを洗い、どこかに出発するところから始まります。
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高速道路を走る途中に休憩で入ったバーでキャスパー(シェリル・クロウ)という女性が支払いをめぐってトラブルを起こしているのを見つけ、ヴァンは代わりに支払って彼女を連れ出してやります。
キャスパーはだらしなく、途中でヴァンに車を停めさせ、ドラッグ注射を始めました。
喘息に苦しむキャスパーに、ヴァンは咳止め効果のあるアマレットを飲ませました。しかし、彼女は間もなく死んでしまいます。
キャスパーを連れ出したヴァン
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ヴァンは物思いに耽ります。「僕は誰にも危害を加えない。彼らは眠っただけ。なのに誰一人目を覚まさない…。僕は殺そうとはしていない。でも彼らは死ぬんだ。」
ヴァンは新聞で下宿先を見つけ、その町にしばらく滞在することにします。
下宿先は中年の夫婦、ジェーン(マーセデス・ルール)とダグ(ブライアン・コックス)の住まいでした。ダグはいかにも気さくにヴァンを迎え入れますが、なぜかジェーンはよそよそしい態度を取ります。
ジェーンとダグ
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ヴァンは飾られた女の子の写真で、この部屋が夫婦の娘カレンの部屋だったことを知りますが、そのカレンの消息は不明。
ダグはフットボール好きで、ジーン(エリック・メビウス)という期待の新人プレイヤーを贔屓にしていました。ダグは「ジーンを息子のように可愛がっている」と言います。
時は11月。郵便局はクリスマス前の繁忙期で人手が不足していました。ヴァンはダグに臨時アルバイトを勧められ、郵便局で働くようになります。
若いフットボール選手、ジーン
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ある夜、ヴァンはジーンが帰宅しようとしているのを呼び止め、彼を家まで送ってやることにします。
しかし、ジーンは銀のボトル(キャスパーはこれを飲んで死んだ)に気がついて執拗に飲みたがり、意識をなくします。
ヴァンは急いでジーンを揺さぶって起こそうとしますが、手遅れでした。
翌朝、ダグはアマレットの瓶をこっそり始末し、何かの袋をゴミ箱に捨てて、半分踊りながら家に入っていきます。部屋の窓からこの様子を見ていたヴァンはダグを疑い始めました。
正体不明の怪しい男たち
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ふと気がつくとヴァンは深い穴の中にいて、シャベルを手にしています。穴の上から2人の男(ドワイト・ヨーカム、デニス・ヘイスバート)が覗き込んで「おまえは何人殺した?」と問い詰めますが、すぐにヴァンは気を失ってしまいました。
意識を取り戻すと、ジェーンがヴァンの上にかがみ込み、必死に介抱してくれていました。さっぱり訳のわからないヴァンに、ジェーンは「あなたは気を失っていたのよ。倒れていたの」と教えます。
介抱されるヴァン
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この時からジェーンはヴァンに優しくなりました。
承:手がかりは少しずつ集まる
ジーンの失踪が町に知れ渡り、捜索隊が組まれます。
ヴァンはジーンとドライブした夜のことを話したい衝動に駆られますが、思いとどまりました。
郵便局の事務員フェリン(ジャニーン・ガラファロー)がヴァンに好意を持ち、付きまとってくるようになります。
ヴァンとフェリン
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ヴァンは煩わしく思いながらも彼女とデートする仲になりますが、2人の間には一定以上の親密さは生まれません。
配達の仕事をしながら、ヴァンは異常なほど郵便物が溜まっている家を見つけ、手紙類をそっと開封して調べはじめます。しかし、墓穴を覗き込んでいた2人の男に見つかり、殴られてしまいました。
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いよいよクリスマスも近くなり、ヴァンは「娘さんが帰省すると思うから」と、いったん家を出ることを申し出ますが、ダグは「娘は帰省などしない」と答えます。
ダグは娘の悪口を言い、ジーンを息子のように思っていたと語りながら、ヴァンに「今はおまえが息子だ。これからはおまえが俺の子どもだ」と言います。
ジェーンはヴァンに、夫が重度の躁うつ病を患っていることを打ち明けます。ダグには自分を殴る奇妙な性癖もありました。「主人のVIPリストには、いつもごひいきがいるの。今はあなたよ」と、謎めいた警告を発するジェーン。
ジェーンは、幼い娘がクリスマスソングを歌うホームビデオを観ながら涙を流します。
下宿のクリスマスパーティを居心地悪く感じたヴァンはそっと抜け出してカフェに行きます。
異様な趣味を持つ画家アイリーン
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カフェで出会ったアイリーン(メグ・フォスター)は気味の悪い絵を描く女で、ヴァンを家に連れ込み、無理にモデルにしようとします。彼女の異様な雰囲気に恐れをなして、逃げ出すヴァン。
下宿に戻ると、すでにパーティは終わり、ジェーンが嬉しそうにヴァンに新しい靴をプレゼントしてくれました。
ダグは「郵便局の配達員が1人心臓発作を起こして倒れたから、おまえは引き続き郵便局で働くことになったよ」とヴァンに告げます。ヴァンはゾッとしました。
ヴァンは軽食堂で食事をしながら、自分の飲んでいるジュースを例の銀のボトルに流し入れます。
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1人の男性客がヴァンのそばに来て水を注ぎますが、コップを床に払い落とし、そのまま無視して手を洗いに行きました。ヴァンはコップを拾い、とっさに飲み物の置き位置を取り替えます。
トラックで下宿に戻る途中、また2人の男が現れ、「あの男は死んだよ。なぜ彼を殺した?」と聞いてきます。
転:事件が明るみに出る
ジーンの遺体が発見され、続いてキャスパーも見つかって、小さな町は大騒ぎになります。
テレビやニュースでも連日取り上げられ、店で死んだ男を含む3つの遺体から同じ毒が検出されたことがわかりました。
新聞には犯人のイメージ図も
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新聞には犯人のイメージ肖像まで掲載されます。その顔はヴァンとは似ても似つかない老人でしたが、不安に怯えるヴァンには自分に似て見えます。
ある日、夜が更けてからジェーンが珍しくヴァンの部屋に入ってきました。ジェーンはヴァンに「何か知っているのであれば話してほしい」と頼み、彼が手に持っている録音機に興味を示します。
ヴァンは当たり障りない返事しかしません。
ジェーンとヴァン
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後日、ダグがヴァンに「ジェーンがおまえの録音テープを聞いたよ」と言い、躁うつ病の発作を起こして自分を殴ります。
ヴァンはダグをたしなめ、「テープは消したから、ジェーンは何も聞いているはずがない」と言います。
ジェーンは娘の写真をそばに置き、呆然とベッドに横になっていました。
ダグはヴァンのトラックを強引に借りて出かけていきます。
その夜遅く警察が訪れ、「奥さんのジェーンと思われる遺体が見つかったから、確認を」と、ダグを連れていきました。
結:真犯人、逮捕される
翌朝、ダグからジェーンの死を聞かされたヴァンはショックを受けます。彼女は後頭部を殴打されたということでした。
しかし、ダグは妻の死よりも自分が疑われていることを恐れていました。「刑事は俺を疑ってるんだ、例の毒で殺してまわった連続殺人犯だと」。
刑事たち
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警察はヴァンにも型通りの尋問をしますが、ダグがトラックを借りた件を知ると満足し、にこやかにヴァンを労ってくれました。
ヴァンはフェリンの誘いに乗って夕食を共にします。しかし、ふとしたはずみにフェリンはヴァンの背後から掴みかかり、びっくりしたヴァンがもがくと、悲鳴を上げて怒り出しました。
責められたヴァンは混乱しながらフェリンの家を後にします。
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帰宅の途中、ヴァンはまためまいがして倒れてしまいます。ヴァンをつけ回す2人の男が銀のボトルを引ったくり、「捜査担当が変わった」と言って消えました。
翌朝、警察が下宿を訪れ、ダグを殺人犯として逮捕。
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1人残されたヴァンは、ダグが去ったあとに鳥が集まりだしたことに気がつきます。自分を可愛がってくれたジェーンを悲しく思い出しながら家を片づけ、町を去ることにします。
ヴァンは「もうあいつらが僕を付け回さないなら、次に着いたところに安住しよう」と心に決めました。
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🍹固定概念なしに観たほうが面白い映画🍹
《The minus man》は決して評価が高い映画ではありません。
多くの観客や批評家が「ストーリーがモヤモヤして意味が分からない」と切り捨てています。
でも、意味がわからないのは固定概念を持ったまま観てしまうから。
「シリアルキラーの流れ者ヴァン」という宣伝文句を頭から追い払うと、この映画の魅力が分かります。
ヴァンがもしシリアルキラーではないなら? 視点をまったく変えて鑑賞してみてください。
男の子のようなヴァン
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ヴァンの人物像・環境については、↓こちらの記事でしっかりと解説しています。
TSUTAYAなどのレンタル屋さんでDVDを探してみてください。
きっと《The minus man》の魅力にハマると思いますよ!