「ケンカ売ってんのか? マジギレするぜ」オーウェン演じるクールなハンセル ― 映画『ズーランダー』解説②
『ズーランダー』第2弾です。前回はベンとオーウェンの関係をメインに書きましたが、2回目のテーマはオーウェン演じるハンセルの魅力。
ベンは「ハンセルに関しては大枠は決めてあったんだけど、性格はどうなるのか今ひとつイメージが浮かんでなかったんだ。劇中の大半はオーウェンのアドリブなんだよ」と、言っています。
🍃映画『ズーランダー』あらすじ・予告編🍃
男性スーパーモデルのバカさ加減とファッション界の陰謀を取り混ぜたコメディ。ベン・スティラーが脚本・監督・主演を努め、大爆笑できる映画に仕上がっています。
ストーリー
予告編
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役名とキャストは、1️⃣の主な登場人物欄をどうぞ。
🍃セリフの大半はオーウェンのアドリブ!🍃
Photo by Paramount Pictures, ew.com
ベンがオーウェンのイメージダウンを狙って(?)、両刀使い・乱交・薬中毒というとんでもない人物に仕立てたハンセル。
でも、不思議なことに、ベンが意地悪して付け加えた三要素(?)はオーウェンが演じたために影も形も見えないのです。ズーランダーと同じく「脳味噌1%」のはずなのに、驚くほど颯爽とクールで、あろうことか知的な雰囲気まで加わってしまいました。
もともと下品に書かれた役ですから、当然オーウェンもその枠の中で演じてみせたのですが、その結果としてあんなに素敵な人物になるとは・・・。さすがオーウェンですね。
ここからは映画の中から、ハンセルのシーンをピックアップしてみましょう。
1.ズーランダーの勘違いを正そうとしない
Photo by Paramount Pictures, made-by-rae
メールモデル・オブ・ザ・イヤーの授賞式で、「勝者はハンセル!」と告げられたにも関わらず、自分が勝ったと勘違いして壇を登ってしまうズーランダー。しかし司会者から間違いを指摘され、ショックを受けます。
ここで面白いのは、ハンセルがズーランダーに遠慮して引き下がろうとすること。人によっては「おいおい、何を勘違いしてるんだよ? 勝ったのはオレだぜ!」とばかり、ズーランダーを押しのけそうなものですが・・・。
しかし、オーウェン演じるハンセルは不当に賞を取られた事に抗議もしません。
そっとステージに登ってはいくものの、ズーランダーが嬉しそうにスピーチをはじめると、戻ろうかどうしようかと迷っています。ズーランダーが敗北に気づいてハンセルに目を向けると、気の毒そうに目を逸らすほど。
オーウェンの優しい性格が現れていますね。
実はこの場面にはまだ続きがありました。
授賞式が終わった後、控室でハンセルに色目を使う女性が「デレクがドジッた時のあなたの態度、立派だったわ」と意味ありげに褒めたのに対して、ハンセルが答えるシーンです。なぜか本編からはカットされてしまったのですが、とても人間として考えさせられる場面に仕上がっています。
ハンセル:賞なんてくだらないよ。どっちがイカすモデルか競うなんて意味のないことさ。ズーランダーが聞き間違えたのは、きっと神と対話していたからじゃないかな。彼はたぶん、あの世の声を聞く能力があるんだよ。だから司会者の言葉を聞き落としたんだ。でも、あの世の声を聞けるなんて、素晴らしい能力だと思わない?
ここも全てオーウェンのアドリブ。無理にこじつけてでもズーランダーを庇うところにハンセルの性格の良さが伺えます。
DVDでは未公開シーンに入っていますから、ぜひ見てみてください。ベンも時々オーウェンへの賛辞を口にしないではいられない時があるようで、このシーンでは「まったくオーウェンは素晴らしい!」と褒めちぎっていました。
2.「宇宙飛行士に憧れる人が多いけど、僕は木の皮になりたい」
天使の羽をつけたままインタビューに答えているハンセル。何のコマーシャルだったんでしょうね? ハンセル曰く「何の役を演じているかは分からないが、いつもベストを尽くしているよ!」
でも、ここでのテーマは天使の羽ではなく、ハンセルが言った言葉。ここもオーウェンがすべて。
「木の皮??? 何それ?」と思いますよね? 私も最初は意味が分からなかったのですが、実はこのセリフにはなかなか深みがありました。
木の皮はいつも風雨や日光に曝されてゴワゴワ。決して美しくはありません。でも、木の幹は皮のおかげで守られています。
一方、宇宙飛行士は普段人が行かない珍しい場所へ行って、賞賛を浴びる立場。
この一見脈絡のない2つを比較しているところが意味を読み解く鍵になっているんです。つまり、ここでハンセルが言っているのは、
派手に脚光を浴びる(=宇宙飛行士)より、自分がボロボロになっても何かを守れる存在(=木の皮)でありたい!
「さすがオーウェン!」と言いたくなる、深みのある発想。なかなかこういう発想のある人って、少ないのではないでしょうか?
文学の博士号を持つオーウェンらしい詩的な表現ですね。
軽めの表現で笑いを誘いつつ、深い意味のある発言をアドリブで飛ばせるところに才能を感じます。
3.「ケンカ売ってんのか? マジギレするぜ!」
Photo by Paramount Pictures, pedestrian
数週間ぶりに再会したズーランダーとハンセル。このセリフはすれ違いざまズーランダーから侮辱されたハンセルの応酬です。
指先で髪をクルクル回すあの仕草も、このセリフもオーウェンのその場の思いつき。 口では「キレるぜ」と言いながら、少しもクールな雰囲気が崩れないところが面白いと思いませんか?
ベンは現場でこれを見た時にはふきだしてしまい、NGシーンを連発。ベンが笑うせいで、オーウェンは「髪の毛クルクル」を何度もするはめになっていました。
オーウェンには、さりげない仕草で笑いを誘えるセンスがあります。製作者が望めばギャグを捻り出してみせるけれど、基本的にはそうしたものより自然な笑いを得意とする俳優ですね。
4.あの長い金髪はカツラ!
Photo by Paramount Pictures, memorabletv
オーウェンは元から美しい金髪の持ち主ですが、ハンセルの時は地毛ではなくカツラ。オーウェンは『エネミー・ライン』の撮影中だったので、髪を切っていたのです。
敵地で知恵を絞って生き延びていく兵士とアイロニカルでクールなモデルを同時並行するなんて、やはりオーウェンの役者としての切り替えの良さを伺わせますね。
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