『シャンハイ・ナイト』はパロディ盛りだくさん! ホームズ・チャップリン・切り裂きジャック
ジャッキー・チェン×オーウェン・ウィルソン共演の第2作『シャンハイ・ナイト』は、知識クイズとしても楽しめる映画。
世界的に有名な人・モノが雑多に詰め込まれ、それらが笑いを誘ったり、物語を盛り上げたりします。
Photo by ©︎Touchstone Pictures.Inc
・公開:2003年
・ジャンル:アクション、コメディ
・時間:114分
・出演:ジャッキー・チェン、オーウェン・ウィルソン、エイダン・ギレン、ファン・ウォン、ドニー・イェン他
☑ 全体に散りばめられたホームズパロディ
☑ チャップリンや切り裂きジャックまで登場
☑ タイトルに込められた意味
ここから『シャンハイ・ナイト』の見どころを語っていきますが、その前に1つ。
この映画は史実上のモノや人をパロディ化し、時代考証や細かいところは無視しています。歴史に詳しく、いちいちツッコみたくなるタイプには不向きの映画でしょう。
『シャンハイ・ナイト』を観るなら、理屈は捨てて楽しんでください。
🌃『シャンハイ・ナイト』のホームズパロディ🌃
登場人物紹介を見て、「あら?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか? じつはこの映画は全編にわたってホームズネタが散りばめられています。
ホームズパロディ①コナン・ドイルはコナン・ドイル
Photo by ©︎Touchstone Pictures.Inc
ドイル警部は、あの作家のコナン・ドイル。ロイの時計を見て詳しい特徴を当てたり、帽子から居所を探ったり、ホームズばりの推理力を発揮します。
ドイル警部:この時計の持ち主は、ギャンブルの腕が悪く、拳銃も下手だな。何度も死にかけては運よく免れたが、人生はかわいそうなほど惨め。認められようとあがき、自分の目的を追い求めて闇雲にさまよっている。おお、そうそう! この男は好色女が好きと見える。
これはドイルがロイの時計を観察して、彼の性格を推理したセリフ。ホームズ・ファンならお馴染みの推理だと思います。
もっともロイはドイルの推理に呆れ、「僕は好色女は嫌いだよ。好色女が僕に寄ってくるんだ」と、訂正していますが…。
こういう細かい推理ミスはホームズにも見られるので、かなり正確に再現している気がします。
映画に出てくるドイルは『シャーロック・ホームズ』を執筆する以前で、ロイやチョンと経験した冒険をもとに小説を書き始める設定になっています。
ちなみに、実在のドイルは警察ではなく、医者。しかし、推理力にとても優れ、現実でも難事件を解決したことは何度もありました。
ホームズパロディ②ロイはホームズ、チョンはワトソン
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ロイは偽名をひねり出す時に、とっさに「シャーロック・ホームズ」と名乗り、あとではホームズの恰好でドイル警部の家を訪ねます。ちなみにチョンはワトソン。
これに関しては衣装を着るだけで、性格や関係などは特に反映されていません。ただ、ロイがホームズを名乗るのは、彼の素性を考える上でかなり示唆的ではあります。
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2人がホームズとワトソンの衣装で現れる場面に関しては、オーウェンがちょっと難色を示した部分がありました。
映画をご覧になった方は分かると思うのですが、このシーンの直前でチョンとロイは逆さ吊りの処刑から必死で逃げ出してきたばかり。
ドプキン監督:元々は2人が脱出したあと、近くの仕立て屋に飛び込み、ありあわせの服を引っ掛けるシーンがあったんだが、カットした。
オーウェンは仕立て屋のシーンを削除したことをかなり気にしていたよ。彼は、そのシーンがないと「2人がホームズとワトソンの恰好をしている理由が分からないし、唐突すぎる」と思ったんだ。
確かに、チョンとロイはすぐにこの衣装を脱いでしまいますし、服について何の説明もありません。オーウェンはストーリーの流れを大切にするタイプですから、違和感を覚えたのでしょうね。
ところで、ラズボーン卿のパーティーに行く直前にくつろぐシーンでロイが着ているガウンもホームズを連想させるもの。デザインもホームズのオリジナル挿絵とそっくりに作られています。
ホームズパロディ③ラズボーンの名はホームズ役の俳優から
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本作の悪役ラズボーン卿(エイダン・ギレン)の名前はホームズ俳優として有名なベイジル・ラスボーンからとられています。
「なぜ悪人にホームズ役の俳優の名前を?」と思うけど、経歴を調べて納得。ラスボーンはホームズ役以外では悪人を演じることが多かったようです。
ちなみに、本作でラズボーンを演じたエイダン・ギレンの見せ場はラスト近くのチョンとの決闘シーンでしょう。
このシーンのためにエイダンは剣術をしっかり練習したそうで、巧みな剣さばきがサマになっています。
🌃チャップリンや切り裂きジャックも登場!🌃
ご覧のように、本作はホームズパロディがメインですが、他にも面白いパロディがいくつか散りばめられています。
スリ小僧の正体はチャップリン?!
Photo by ©︎Touchstone Pictures.Inc
映画で活躍するスリ小僧(アーロン・ジョンソン)の名まえはなんと、チャーリー・チャップリン! ドイルと違い、名前が出てくるのは最後の1回だけですが、びっくりした観客も多いかもしれませんね。
せっかくの機会なので、チャーリー本人の素顔をお披露目↓
喜劇王のイメージと裏腹に、物静かな印象ですね。幼少期は極貧で、何度も救貧院に入ったそう。とはいえ、彼が泥棒だった記録は見当たりません。
では、どこからスリのイメージを持ってきたのか…。おそらくチャップリンが泥棒の役を何度も演じているせいでしょう。
映画に出てくるチャーリー少年は、「(盗むのは)食べるためだよ」と話しています。
切り裂きジャックと「ご婦人たち」
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映画の「切り裂きジャック」
最後にご紹介する実在の人物は、切り裂きジャック。19世紀末のロンドン(『シャンハイ・ナイト』の設定はこの時代)で恐れられていた、連続殺人鬼です。彼のターゲットはつねに娼婦で、何人もの女が犠牲になりました。
映画の登場シーンはほんの1回だけ。夜道を歩くリン(ファン・ウォン)を襲おうとして返り討ちに遭い、河に落ちてあっけなく死亡します。
出てこなくてもストーリー展開に何の影響も及ぼさない、脇役の中のワキ役ですが、この時代のロンドンを伝えるのには一役買っているかもしれません。
本作の切り裂きジャックに関連では、未公開シーンのオーウェンのセリフがちょっと面白いです。
ロイ:待って、その野郎はご婦人たちを殺してるの?
ドイル警部から切り裂きジャックの話を聞いた時のロイの反応。
監督はここで興味深いコメントをしています。
ドプキン監督:オーウェンが娼婦のことを「ご婦人たち」と呼ぶのは、彼らしいなと思うよ。
監督の言うとおり、オーウェンの公平な精神を感じさせる言い回しですね。娼婦であっても差別的な言い方をしないところに、監督はオーウェンの人格を読み取ったようです。
Photo by ©︎Touchstone Pictures.Inc
🌃タイトルにも洒落が込められている🌃
いかがでしょうか? 雑学が盛りだくさんなので、友達同士でクイズを出し合っても楽しそうです。
最後にタイトルについてもひと言。
knightsは〈騎士たち〉の意ですが、ここではnight〈夜〉の意味も掛けてあります。物語のクライマックスが夜中の12時に起こるところから来ているタイトルなんです。
ちなみに、前作のnoonは〈正午〉。あちらのクライマックスはお昼の12時ですから、やっぱり合っていますね。
どちらも、善悪の決着がつく場面の時間帯でタイトルが選ばれているようです。
でも〈騎士たち〉と〈夜〉を掛け合わせた『シャンハイ・ナイト』のほうがタイトルの洒落の点で上回っていますね!
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