天気予報士は予知能力の象徴? 映画『アー・ユー・ヒア』の謎を解く
この映画、日本ではAmazonプライムでしか観られないレアな作品な上、ストーリーがとにかく奥深い! ストーリーもセリフも極めてシンプルなのに、画面を通して次々と語りかけてくる描写。
私自身、書いているうちどんどん熱が入って、すっかり没頭しています。
Photo by ©Gilbert Films
・公開:2013年
・時間︰114分
・出演:オーウェン・ウィルソン、ザック・ガリフィアナキス、ローラ・ラムジー、エイミー・ポーラー、他
・ジャンル:なし(ロマンス、サスペンス、ドラマの融合)
さて、今回は【謎解き篇】。『ザ・マイナスマン』の解説でもアップしたような、映画の描写を細かく考察する記事です。
そういえば、『マイナスマン』と『アー・ユー・ヒア』集団による犯罪に主人公が巻き込まれる展開が似ていますね。
➡『ザ・マイナスマン』解説シリーズ・推理篇
『アー・ユー・ヒア』に話を戻しましょう。
主人公のスティーブ(オーウェン・ウィルソン)はラストで、犯罪に利用されてきたアンジェラ(ローラ・ラムジー)を救い、彼女と結ばれます。
しかし、スティーブはどうやって真相にたどり着いたのか? 今回はそこを掘り下げていきます。
結末については前回さんざん考えたあげく、「スティーブとアンジェラの結婚」と決着が着きました。でも、スティーブはどうやって事件の真相を見抜いたのでしょうか?
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🌿スティーブが真相を突き止めたプロセス🌿
ラストに行くにつれストーリー展開が速くなり、多くの重要なポイントもぼかされていきます。結末は幸福感と悲哀が混ざる雰囲気ですが、スティーブが真相を知ったプロセスはヴェールに覆われた状態。
しかし、スティーブが闇組織を倒す結末なら、「どう解明したのか」知りたくなりますよね?
ご心配なく。このプロセスもヒントはいくらでも隠れています。
天気予報士=予想力がある
Photo by ©Gilbert Films
スティーブは天気予報士。実は彼の職業そのものが手がかりになっています。天候の流れを予想してみせるスティーブは、「未来を形作り、明るみに出す」存在。職業と掛け合わせた設定なんですね。
スティーブ:僕の言うことは信じたほうがいいよ。天気予報士だからね。
アンジェラがベンと一夜を過ごしたことを知り、傷つきながらも警告を発するシーンのセリフ。天気予報士であることを強調していますが、これが観客に関連を気づかせるヒントになっています。
木々を切り払う
Photo by ©Gilbert Films
この映画には、一見脈絡なく登場する謎の人物がいます。スティーブの隣に住む一人暮らしの若い女。この女はセリフはなく、たびたび夜中に裸になって窓から忍び出ます。
スティーブは冒頭からこの女の行動を不審に思い、ついには真相を突き止めるために家の前の木々を切り払わせることまでします。
最後、スティーブがベンに会いにいく直前にこの女が登場するのは象徴的。スティーブが窓から様子を窺うと、女は何と、まっすぐスティーブに向き直り、自分のヌードを挑発的に見せつけるんです!
ここは無言のシーンで、スティーブが女と切り株を見比べているだけ。しかし、スティーブの悲しげな表情から、何か恐ろしいことに思い至ったことが分かりますね。
そう、スティーブは自分が愛するアンジェラも裸の女と同じことをしていると悟ったのです。アンジェラもこの女も富豪の男を誘惑する役割。アンジェラが自分を退けたのに、ベンとはあっさり関係を持った理由も、嫌でも分かります。
次の場面でスティーブは「木が恋しい」とつぶやきます。これも象徴的な意味。
彼は真実を探求するために木を切りました。が、そこで発見したのはスティーブにとってあまりに辛いもの。
「木が恋しい」=「見ないほうがよかった」という意味なんですね。しかし、スティーブはそれでもアンジェラの善良さを信じていました。
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ヌードの女と切り株は生贄の儀式の象徴?
さて、女と切り株にはもっと恐ろしい暗示も秘めています。
切り株は物々しく囲いがつけられていて、何とも不気味な雰囲気。ヌードの女と切り株、ストーリーの背景にはアーミッシュの宗教団体。
切り株は生贄の儀式を連想させますね。
宗教の歴史にはゾッとするような出来事が刻まれていますが、その中に⬇こんな儀式がありました。
生贄は定められた女と悦びを交わした後に火あぶりもしくは斬首される。
この映画の生贄は財産を狙われる男性たちのこと。このシーンは短いながら、スティーブが真相を知ったことが分かる重要なシーンです。
裸の女は犯罪組織の手先で、男たちを餌食にする役割を担っていたと思われます。訳知り顔でスティーブを見るのは、彼が次の犠牲者であることを心得ている証でしょう。
おそらくこの女はスティーブの見張り役で、彼についての情報はこの女から流れていたと考えられます。
ただ、アーミッシュはキリスト教なので、ふつうは生贄などは捧げないはず。あるいはキリスト教を装った多神教だったのか・・・。憶測の域を出ないので、このことについては突っ込まないでおきましょう。
鶏はスティーブの象徴?
Photo by ©Gilbert Films
さっきの生贄の話と被る部分もありますが、映画の中盤スティーブはアンジェラに強制されて、ローストチキン用の鶏を殺さなければならない羽目に陥ります。
心優しいスティーブにとっては、鶏を始末するのもひと苦労。半分泣きながら鶏の頭を落とします*1。
が、それよりも重視すべきなのは、この鶏がスティーブの象徴であること。
鶏は狭い囲いに入れられ、たまに出してもらえても、農場主の目の届く範囲にしか行けません。時期が来れば、容赦なく頭を切られ、人間に食べられてしまいます。
この状況はまさにスティーブの生活にそっくり。スティーブは会社とベンの家を行ったり来たりするだけで、どこに行こうと犯罪組織の目を逃れることはできません。そして彼らはいずれスティーブを殺し、肥やしにするために利用するつもりなのです。
鶏に斧を振り上げる時、スティーブは恐怖に慄いていますが、それは単に動物を哀れに思っただけではありません。
彼は無意識に鶏の姿に自分の状況を重ね合わせ、恐ろしいビジョンを見てしまったのです。
スポーツカーの後ろに見えるショベルカー
Photo by ©Gilbert Films
裸の女と切り株を見つめるシーンが切り替わると、スティーブはお馴染みのスポーツカーを猛スピードを上げて走っています。後ろを振り返るスティーブの様子から、追われていることが分かりますね。
ちょっと見えづらいのですが、スティーブが走っている時、後ろを見てください。ショベルカーがスティーブの車を掴まんばかりに迫ってきています。アンジェラを脅したあの車と同じかもしれません。
敵が追っているということは、スティーブが真相を知った証拠。しかし、次のショットでは車の後ろに道路が広がり、スティーブが無事に敵を振りきったことが示されます。
運転しながら、息苦しそうに風に当たるスティーブの仕草も印象的。彼が複雑な心境に悩んでいる感じがよく現れていますね。
スティーブとベンの溝が深まる
Photo by ©Gilbert Films
25年来の親友であるはずなのに、このシーンでスティーブとベンはまったく互いを理解できません。
スティーブ:いつ彼女を好きになったんだ?僕はズタズタだよ。
ベン:恋なんかしてないさ。(中略)俺はアンジェラを愛したことなんかない。
スティーブ:でも、きみは彼女と寝た。好きじゃないなら、なぜ寝たんだ?(中略)恋い焦がれる僕を退けたのに、きみとはセックスするなんて…。どういう基準だろう?
スティーブはアンジェラの言動が犯罪に根ざすものと分かっていて心を痛めています。まだ彼女を深く愛しているスティーブは、「何とか善の道に導きたい」と祈るような思い。
彼はベンにも失望しています。
映画の前半、ベンは菜食主義やプラトンの学園といった偏った思想に固執しながらも、まだ正義感にあふれていました。
しかし、躁うつ病の薬を飲みだしたベンは、現状に満足してしまい、周囲に蔓延る犯罪にも無頓着。愛してもいない女と関係を持っても悪びれもしないほど薄っぺらになってしまっています。
ベン:食べて、寝て、必要なものは何でも揃っている。これ以上何もいらないさ。こうやって生きているんだから、もう充分じゃないか。
ベンの呑気な哲学を聞きながら、スティーブは泣き出してしまいました。スティーブの涙は、親友への失望やアンジェラに対する葛藤だけでなく、人間そのものの卑しさを悲しむ気持ちもあったでしょう。
🌿アメリカ映画らしく結果は正義の勝利🌿
Photo by ©Gilbert Films
ベンは悪の社会に流される生き方を選んだ結果、ラストで命を落としました。逆にスティーブは苦しみながらも悪を倒し、アンジェラとの幸福を得ます。
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スティーブの観察眼のおかげで、悪は根こそぎ倒され、平和な世界が戻ることが約束されました。
雨は不要なものを洗い流し、育つものに恵みを与えます。
スティーブの予言は当たり、アンジェラは救われてスティーブの愛というかけがえのない宝を手にしました。
ストーリーの考察は今回で終わりです。次回からは製作エピソードなどを話そうと思います。
しかし考察だけで6回分の記事を費やしたのは初めて! もし、ぜんぶ読んでくださった方がいらしたら、心からお礼を申し上げます。
では、映画《Are you here》にもう少しお付き合いください・・・。
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つづく➡
6.スティーブが真相を見抜くまでのプロセス(本記事)
*1:斬首シーンそのものは映らないので、怖いのがダメな方もご安心ください。