殺人鬼? それとも超能力者?『アフターライフ』の謎めいた男エリオット
さあ、今回はリーアム・ニーソン主演の映画を考察していきますよ! ご紹介するのは、『アフターライフ』。日本ではマイナーですが、とても面白い映画です。
Photo by ©︎Anchor Bay Entertainment
・公開:2009年
・ジャンル:スリラー
・時間:104分
・出演:リーアム・ニーソン、クリスティーナ・リッチ、ジャスティン・ロング他
この映画の魅力は何と言ってもリーアム・ニーソン1人にあります。アクションで有名になった彼のイメージと裏腹に、ここでは静かな緊張感に満ちた演技を見せています。
さて、国内外問わず、この映画で最も物議を醸すテーマは「主人公のアンナは生きているのか、死んでいるのか?」。
答えを先に言うと、死んでいます。
🕯『アフター・ライフ』あらすじ🕯
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アンナ(クリスティーナ・リッチ)は近ごろ無気力になり、恋人のポール(ジャスティン・ロング)を困惑させている。ある日ポールがディナーの席でプロポーズしようとすると、アンナは彼の言い方から別れ話と勘違いして激怒。嵐の中で車を走らせ、途中で大事故を起こす。
気がつくとアンナは殺風景な部屋に寝かせられ、葬儀屋エリオット(リーアム・ニーソン)が彼女を見下ろしている。エリオットは、彼女が事故で死んで、自分は葬儀の準備をしていると話す。
アンナは自分は死んでいない、話ができるのが証拠と主張するが、エリオットは「皆、そう言う。でも、私以外の人間には、きみは死体にしか見えない」と取り合わない。
アンナは心の中でポールに助けを求めるが、そうするとポールの現実での言動も狂い出した…。
🕯アンナは生きているのか?死んでいるのか?🕯
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アメリカでの公開当時から物議を醸したテーマ。監督は後にインタビューで「アンナは生きていて、エリオットはシリアルキラーである」と語ったそうですが、私自身はこのインタビューの出所を見つけられませんでした。
監督が意図した内容はともかく、私はこの映画を観て「アンナは死んでいる」としか思えません。
根拠①:脈がない
アンナはエリオットがいなくなった後、自分の脈を確かめようとして失敗。もし生きて意識がある状態なら、脈はあるはず。死んでいる証拠です。
根拠②:電話が通じない
これは2度登場します。最初はかかってきた電話を切って、別の電話をかけようとしますが、アンナにはできません。何度電話のフックを押しても、かかってきた電話を切れず、彼女は諦めます。
2度目は地下室を抜け出して、エリオットの私室の電話を使う時。彼女はポールの携帯にかけ、「助けてほしい」と訴えますが、ポールは彼女の声が聞こえず、気味悪がって切ってしまいます。
電話が通じているのに声が届かないのは、やはりアンナが死人だからでしょう。
根拠③:鏡と息
これは「アンナは生きている」と主張する側の有力な根拠になっていますが、私はそうは思いません。
この【息】が誰にでも見えているとは限らないからです。エリオットがそっと拭き取るのは、「彼女が息を見て生きていると勘違いするのを避けるため」ではないでしょうか。彼女とエリオット以外の人間にあの【息】が見えているかどうかは不明です。
根拠④:外に出ても元の場所に戻る
葬儀の支度が済んだ後、エリオットはアンナを外に出してやります。ポールの家に向かうアンナが行き着くのは地獄のような恐ろしい場所。魔女のような老婆からツタで縛り上げられ、口から虫を吹きます。そして、気づけば死体安置所に戻っていました。
これも生きているならあり得ない現象です。
根拠⑤:ヒドリニウム・ブロマイドの注射
これも息の件と同じく、「アンナは生きている」と考える観客にとっての有力な根拠になっています。しかし、私はこれも生きている根拠にはならないと考えます。
生きている肉体と死体とでは、薬品の働きも異なるはず。エリオットは「死体の腐敗を防ぐために注射する」と語りますが、彼が嘘をついている証拠はありません。
警察の1人が「ヒドリニウム・ブロマイドって薬なら、仮死状態にできる」と話すシーンがありますが、これは生きている身体に対しての話。死体に注射した場合どうなのかは、観客には分かりません。
化学に疎い私ですが、もし仮死状態だとしたら少なくとも1つおかしなことがあります。映画を観ると、エリオットは何度も注射を打っています。
仮死状態にするためには、致死量の一歩手前の量を打たないといけません。この映画みたいに繰り返し注射していたら、アンナはあれほど元気に動き回ることはできないはず。意識が戻っても、もっと弱りきっていないと辻褄が合わないのです。
よって、ヒドリニウム・ブロマイドはエリオットの発言どおりの目的で使われているのだと思います。
根拠⑥:叫んでも聞こえない
墓に埋められる時、アンナは棺の中からギャーギャー叫びますが、参列者はまったく気づきません。
実際に観れば分かりますが、彼女が叫び出すのは棺に土をかぶせ始めたタイミング。周囲は特に騒がしくもないので、あれだけ騒いで棺のフタを叩き続ければ、誰かが気づくはずです。
根拠⑦:食事を摂らない
死体安置所に運び込まれて3日間、アンナはいっさい食事や飲み物を口にしていません。もし生きているのなら、あんなに元気に動き回れないはずでしょう。
🕯エリオットは善人で超能力者!🕯
Photo by ©︎Anchor Bay Entertainment
今度はエリオットの行動にスポットを当てて、彼の善悪をハッキリさせます。
根拠①:電話
アンナの生死の問題のところでも書きましたが、エリオットの家の電話はちゃんと通じています。
エリオットが細工した可能性もゼロ。アンナの声がポールに届かなかった電話はエリオットの居間の電話機を使ったもの。エリオットはアンナがあの電話機を使うとは予想できるはずがなく、細工する暇もありません。
この点から見ても、アンナの電話は本当に声が届かなかったことが証明されます。
根拠②:アンナが部屋にいる状態でカーテンを開ける
もしエリオットが殺人鬼で嘘をついているのであれば、アンナが動いているところを見られないように細心の注意を払うはず。しかし、彼はアンナが姿見を覗き込んでいる時にカーテンを開けて外を眺めます。
これもエリオットに後ろ暗いところがない証拠でしょう。
根拠③:あっさり手鏡を渡す
アンナが姿見で自分の姿を見ている時、エリオットは息をハンカチで拭き取りました。にも関わらず、葬儀の直前アンナが「最後に自分の姿を見たい」とせがんだ時、あっさり手鏡を渡します。
息で曇るのはアンナの幻想でしかないことを知ってるからこそ、こんな行動に出たとしか考えられません。
もしエリオットが殺人鬼なら、手鏡をかざすだけで絶対にアンナに渡さないはずです。
🕯『アフターライフ』考察まとめ🕯
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リーアム・ニーソンが演じるエリオットには独特の魅力があります。
時には死者の自覚のなさにイライラすることもありますが、基本的には誰に対しても優しく、公平です。
私はエリオットの人物像がとても好きです。死者と話す能力があるばかりに、死者の愚痴やワガママに振り回されるのは、観ていて気の毒になりますね…。
エリオット自身、一度腹を立てて「こんな能力、まるで呪いだ」とぼやいていました。
それでも彼は最後まで、死者がなるべく安らかにあの世に行けるように一生懸命計らっています。
リーアムの優しい中に威厳のある表情がとてもこの役に似合っていますね。