奇跡の人?! オーウェンらしいエピソード5選|映画『シャンハイ・ヌーン』解説③
『シャンハイ・ヌーン』解説シリーズ第3弾です。
本作はオーウェンの出演作の中でも、撮影時の苦痛はトップクラスに属しました。
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しかし、そんな『シャンハイ・ヌーン』にも心温まる撮影エピソードはいくつかあります。
ここでは、そうした【読んで楽しくなる】エピソードをご紹介しましょう。ブログの性質上、どうしてもオーウェンがメインになることはお許しください。
映画の概要や詳しいキャストについては、↓こちらの記事をどうぞ。
🌵撮影エピソードに見るオーウェンらしさ🌵
Photo by ©Touchstone Pictures
本題に入る前に、オーウェン演じるロイについて説明しておきましょう。
チョン(ジャッキー・チェン)の親友となるロイは西部のならず者。普段は仲間を率いて列車強盗をして暮らしていますが、チョンの列車を襲った時に失敗。仲間から裏切られて砂漠に生き埋めにされてしまいます。
しかし、チョンが渡したお箸を使って何とか脱出し、その後チョンと一緒に逮捕されてしまった時に彼と仲良くなっていきます。
泥棒で売春宿の常連客でもあるロイは実際のオーウェンとはまるで正反対。けれども、オーウェンはこの役にも自分のセンスを混ぜ、観客の共感を呼ぶことに成功しています。
オーウェン初めての乗馬
Photo by ©Touchstone Pictures
男性版シンデレラ②で書いたように、小さい時は馬の練習をさせてもらえなかったオーウェン。
しかし本作はカウボーイの役ですから、人生で初めて馬を操るチャンスを得ました。デイ監督は音声解説でも最初、オーウェンを「馬のことなんか何にも知らない」とせせら笑っていましたが、ロイがチョンを救い出すシーンで評価が一変。
百聞は一見にしかず。ここはぜひ本編を見ていただきたいですね。でも、ざっと書くと、⬇こんな技です。
馬を超特急で走らせながら、途中の地面にあったシャベルを拾い、それで敵を一人始末してから、馬を急ブレーキ。片手で手綱を操りながら、もう一方の手で腰からピストルを抜き取る。
理解しにくいかもしれませんが、これはとても難しい技なのです。さすがのデイ監督も脱帽し、「乗馬を始めて間もないのに、良く出来たね!」と、称賛。
オーウェンは、「本物のカウボーイについて数週間教わったからだよ」。いかにも彼らしい、さりげない返答です。
馬に関する話では、もう一つ微笑ましいものがあります。
チョンが馬具をつけようとしてうまく行かず、見かねたロイが手伝うシーン。ここでオーウェンは、気が立っていた馬の背中に優しく手をかけ、見事に落ち着かせてしまうのです。
馬の表情をよく観察してみてください。オーウェンの手の温もりにすっかり安心して、眠そうな目になっていますよ。
スタントマンの夜遊びにお説教する
Photo by ©Touchstone Pictures
このブログの常連の方ならもうご存知だと思いますが、オーウェンはとにかくお堅くて、恋愛にまじめ。女遊びや不倫、複数交際は大嫌いです。
そんな彼の性格が表れているのが、本作におけるスタントマンとの関係。
オーウェン:映画の撮影中、1度僕のスタントマンと一緒に夜に出かけたことがあったんだ。そうしたら、なんと彼は風俗に入っていったんだよ! 僕は「きみは結婚してるじゃないか!」と注意したんだけど、どこ吹く風なんだ。「なんだい、門を閉じたって、飛び越えるさ!」。まあ、あのセリフはロイに似合うかなと思って使ったけどね。
「門を閉じても、飛び越えるよ!」は、ロイがチョンの妻となったインディアン娘のフォーリングに言い寄る時に使われています。
ロイが人妻を口説くことも当然オーウェンは気に入らず、「人妻なのに平気で口説くんだよね。チョンは気にならないみたいだけど」などと、非難がましく語っていました。
音声解説でこのシーンに差し掛かったところで、しっかり夜遊び批判をするところがオーウェンらしいです。
ちなみに、オーウェンは少年時代に生真面目過ぎる性格をいじめられたのがトラウマになっていて、初対面やまだ打ち解けていない相手には軽々しいフリをする癖があります。
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この『シャンハイ・ヌーン』でも、コメンタリーが始まって間もなくはちょっと無理しているようでした。しかし、40分ほどでスタントマンの浮気を非難しだしたところを見ると、やはり自分を演じるのは長続きしないようですね。
ジャッキーの顔を立てるため、アクションはほとんどせず
Photo by ©Touchstone Pictures
オーウェンは初め、ロイが揉みあったはずみでチョンを床に叩きつけるシーンをかなり渋りました。
理由を問われたオーウェンは、「アクションが得意なジャッキーを張り倒すなんて、失礼だと思ったんだ」。いかにも彼らしい配慮ですね。
オーウェンはジャッキーのプライドを傷つけたくないあまり、映画で目立ったアクションをすることさえ遠慮したのだそう。しばしば本作でのオーウェンは、「相棒役でありながら、まったくアクションをしない」と言われますが、それはオーウェン本人がジャッキーの引き立て役を望んだためです。
オーウェン:僕だってアクションはできるんだよ。でも、ジャッキーの一緒の時はしたくなかった。ジャッキーの気持ちを傷つけたくなかったし、彼はとても繊細だから。
数年後、『トラブル・マリッジ』のインタビューの時にオーウェンは⬆こう語っていました。
しかし、ジャッキーにまつわるシーンでオーウェンが最も嫌だったのは、ロイがチョンの陰口を叩く場面。
オーウェン︰ジャッキーの純真な目が曇るのは見ていて辛い。たとえ演技でも人の悪口を言うなんてイヤだったよ。
演技の中でも悪口を言って心を痛めるなんて、彼がいかに人を思いやるか分かりますね。
奇跡の人?
Photo by ©Touchstone Pictures
教会で悪徳保安官ネーサンに追いつめられ、絶体絶命のピンチの中、ロイはたった1発しか残っていなかった弾丸で相手を倒します。
あまりの意外さに自分でも驚き、「奇跡だ! ロイ、おまえは無敵だぞ!」と叫ぶロイ。
さて、コメンタリーでこの場面に差し掛かった時、オーウェンはふと、⬇こんなことを言います。
オーウェン:このまえ、イスラエルの教会に行った時にね、老婦人が僕をギュッと抱きしめて、「あなたこそは奇跡の人です!」っておっしゃるんだ。彼女は『シャンハイ・ヌーン』を観ていたんだ。きみ(トム・デイ監督)の映画はずいぶん広まってるよ。
興味深いエピソードですね。オーウェンは監督を立てた言い方をしていますが、じつは老婦人が抱きついてきたのは、他にも理由があります。
オーウェンは貧しいイスラエルに、驚くほど多額の寄付をしたらしいのです!
真相ははっきりとは分かりませんが、あり得ることですね。そもそもなぜイスラエルの教会に行ったのか、オーウェンは話していませんし、彼は自分の善行を言いふらすタイプではありませんから。
ジャッキーとオーウェンは初共演ながらとても息の合うコンビを見せた
Photo by ©Steve Granitz/WireImage
↑こちらはプレミアでの写真。写真の日付は3月23日になっていますが、別のものでは5月23日。どちらが本当なんでしょうか。ちょっとこれは分かりませんでした。
オーウェンが胸につけているのは、カウボーイ姿のジャッキーの写真がついたバッジ。映画の記念バッジか何かでしょうか。
オーウェンがジャッキーと会ったのは、本作の撮影の時が初めてでした。性格のタイプは違うながらすぐに仲良くなり、ジャッキーは自身が週末に開くカラオケパーティーにオーウェンを呼んだりもしたようです。
そのパーティーでジャッキーが仲間のスタントチームと遊んでいたのが、バスタブシーンに使われたお酒の遊び。オーウェンはこの遊びを「老婦人がポーカーをするよりも騒がしい」と評していますが、面白い表現ですね。
Photo by Touchstone Pictures
ジャッキーはオーウェンに対して、未公開シーンでよく気のつくところを見せています。
ロイとチョンが互いの服を褒め合うシーンで、ジャッキーは「そのブルーのシャツが君の目の色とよく合っている」と、言うのです。このセリフがジャッキーのアドリブと知った時のオーウェンはとても嬉しそうでした。
余談ですが、この映画でオーウェンが着たカウボーイの衣装は、記念として彼にプレゼントされたそうです。「カウボーイハットほどきみに似合う帽子はないよ」と、監督は言いますが、たしかに素敵ですよね。
🌵オーウェンの性格が滲み出る製作エピソードまとめ🌵
撮影エピソードを雑多にお話ししましたが、要点をまとめておきますね。
・オーウェンは本作で初めて馬に乗り、見事な技を決めた
・ロイが人妻を口説くシーンを、オーウェンは「不道徳だ」と非難。
・オーウェンはジャッキーに遠慮して 、自らは【引き立て役】としての立場に甘んじた。
・ロイが中国人差別の発言をするシーンについて、オーウェンは「例え演技でも、あんなセリフは言いたくなかった」とコメント。
・オーウェンとジャッキーは本作で初めて知り合った。
・イスラエルの教会で、オーウェンは見知らぬおばあさんから「あなたこそ、奇跡の人よ!」と抱きつかれた。
映画は本編だけでも面白いですが、こうした裏の撮影エピソードを知るともっと楽しくなりますね。